焼失の謎 〜迷解編〜



 2005年 2月11日 9:30

 吉良は事件整理の最中ではあるが気分を晴らすために表でタバコを吸っていた。
 気分が優れないのには理由があった。
 どうしても解らない2つの謎が頭を悩ませていたからだった。

・犯人はなぜ被害者にとどめを刺さなかったか?
・犯人はなぜ離れに火を放ったのか?

 考えるほど解らなくなってしまうのである。
 この時『あの男』ならばどうやって解決に導くのだろうか。
 ふと頭に浮かんだ海外研修中に出会った男に相談してみたくなった。
 吉良は気が付くと携帯電話で『あの男』に電話をかけていた。
「久しぶりだね、ミニさん」
『どーもーゴールドバーグでーす!』
 何故か心が和んでしまう。解決できるかどうかが一瞬吹き飛びそうになったが、かぶりを振って脳内に刺激を与え期待の心をよみがえらせた。
「いきなりで悪いんだけど、君に問いかけたいことがあるんだ」
『何なに? ちょうど問いかけられてみたかったところなんだよ。何でも言ってみなさい』
「……実はね、難事件を抱えることになってね」
『なるほど! グズって仕方がないんだな? そんな時はおしめかおっぱいと相場は決まっている」
「い、いや、だき抱えてるわけじゃないんだよ。あやしたいわけでもないんだよ」
『じゃあどういうことなんだい?』
「実は……」
 吉良は自分の突き当たっている壁について簡単に説明した。
『あ、そういうことね! 任せておきたまえ! 難なく答を出してやろう!』
「そうか。じゃあまず聞きたいのは『犯人はなぜ被害者にとどめを刺さなかったか?』についてだ」
『ちょっと待って! キャッチ入った!』
 その一言を告げると突然電話は切られた。吉良はミニ・ゴールドバーグがこの時キャッチではなく考える時間を欲したのだとすぐに理解した。
 彼は「難なく」と大きく出たが難ありとみてすぐさま言い訳をしたのである。
 頭の回転が早い男だと吉良は感心していた。
 ほどなくして携帯に電話がかかってきたのですぐさま通話ボタンを押して耳に携帯電話を押しつけた。
『ごめんごめん。キャッチだと思ってたらお風呂が沸いた音だったみたいだ。で、なぜとどめを刺さなかったかだね?』
「ああ。では聞こうか『犯人はなぜ被害者にとどめを刺さなかったか?』を!」
『被害者が負けたと悟り、直後に必死でヘルメットガードをしていたから』
「背中刺されてるのに?」
『……い、イッツァ ソニ……イッツァ ジョーク!』
「わかったわかった。じゃあもう一度聞くよ? 犯人はなぜとどめを刺さなかったか?」
『ナイフを刺した瞬間、被害者が樽から飛び出したから』
「もうギブアップの臭いがするのは僕の気のせいかい?」
『私はいかりや長介が大好きだ!』
「次いってみようって事ね」
 本当に負けを認めない姿には敬意を表したいと吉良は思った。
「では次の謎だ。『犯人はなぜ離れに火を放ったのか?』これはどうだい?」
『犯人はとどめを刺さなかったのではなく刺せなかったから』
「どう考えても手前の質問に答えたよね? しかも的を得て」
『今とっさに思いついたから……』
「いいよ。でも次はしっかり後者の質問に答えてくれよ?」
 子供をあやすように吉良は言った。
『OK! 準備はいいぜ! もう僕の気持ちは発射台に乗ったロケットのような気……』
「犯人はなぜ離れに火を放った?」
『ラーメンより焼き肉の腹だったから』
「君の発言さえぎったことには怒らないんだね?」
『自分でも例えがマズかったと思ったからね。それより回答はどう?』
「インパクトに欠けるなぁ。だからもう一度答えてくれ。犯人はなぜ離れに火を放った?」
『ジュゼッペロッサ!』
「インパクトだけじゃないか……。意味も分かんないし……」
『ヘコんじゃった?』
 自分で言っておきながら気を遣ってくる辺りが彼らしい優しさなのだと思った。
「気にしなくていいよ」
『そっか、じゃあそろそろお風呂に入らなきゃいけないから電話切るね』
「え!? おい、あっ! ちょっと!」
『ツー……ツー……ツー……』
 そこは気を遣えよと地面に膝を折り吉良は通話を切った。
 そして吉良は今度こそ本当に頼りになる釈迦という友人に電話をかけるのだった。
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