硝煙の謎 〜解決編〜

 A子はドアノブを捻り我が家であるマンションの一室へと足を踏み入れたときだった。
『パン!』
 乾いた破裂音が部屋の中に響き、硝煙の臭いが漂った。
「キャ!」
 A子は小さく悲鳴を上げるとともに玄関口に尻餅をついた。
 その声が部屋に響くと突然闇に支配されていた空間は明るくなった。
「誕生日おめでとう!」
 錘の形をした物体、クラッカーを握っていた人物が口を開く。
「あ、綾小路さん!? そ、それに福建省さんにミニ・ゴールドバーグさんも!?」
 そしてA子は悟った。そう、彼女自身の誕生日であったということを。
「遅かったじゃないかA子ちゃん。管理人さんに事情を話して鍵を開けてもらったんだけど、なかなか帰ってこないから」
 クラッカーを握った綾小路が他のメンバーにも同意を求めるように言う。
「どこかに寄っていたのかい? 退社したのはもっと早かっただろう?」
「……え? ええ、少し行くところがあって。でも誕生日だなんて忘れてたわ」
 A子は少しドギマギした様子で応えた。
「でもA子ちゃん、少し驚きすぎじゃないか? 腰を抜かすなんてさ」
「本当に忘れてたんだな。演出がまずかったかな?」
 ミニ・ゴールドバーグの言葉に福建省が応えると祝いに駆けつけた3人は笑っていた。
 A子は確かに忘れていた。自分の誕生日だなんて事を。日々の忙しさに終われていたこともあったのだが……。
「それより明日はA子ちゃんも休みだったろう? 僕たちも有休をもらったから思い切って飲み明かそうじゃないか! って言ってもそんなにお酒には強くないんだけど」
「……え、ええ」
「あ、都合悪かったかな?」
 A子の反応に綾小路は少しバツ悪そうに聞いたが「いえ! もちろん大丈夫よ!」と顔をほころばせてA子は応えた。
「よし! じゃあ誕生年のワインも買ってきてるから早速開けようじゃないか!」
 福建省が洒落た箱からワインを取り出すとワインオープナーで手慣れた風に開けていく。
 その様子をうつろな表情でA子は見ていた。

 硝煙の香りが数時間前の出来事をA子の脳裏によみがえらせる。
 そしてA子は頭の中である思考を巡らせた。
『綾小路さん一人だけがクラッカーをはじいた。もちろん硝煙の跡も彼の腕にびっしり残っている。そして彼はそれほどお酒が強くない。あわよくば……』
 そこまで考えるとA子はバッグの方に少しだけ目を落とす。
『あいつは死んで当然だったのよ。でも、この証拠をどうして持って帰ってきてしまったのか……』
 数時間前に闇で手に入れた拳銃で一人の人物の頭を撃ち抜いた光景がよみがえる。
 気が動転したのかバッグに拳銃を押し込んだまま帰宅してしまったのである。
『綾小路さんが眠った後に彼の荷物にコレを忍ばせれば、彼の硝煙で誤魔化せるかもしれない……。でも、彼には何の罪もないのにそんな事は……』
 A子は葛藤に迫られていた。

「じゃあ改めて、A子ちゃんの誕生を祝って! 乾杯!」
『乾杯!』
 皆のグラスが硬質な音を上げて中央でぶつかった。
 その硬質な音と共にA子の中では葛藤がまだ巡っているのだった……。

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