2005年 7月18日 19:50
薄暗がりの中を、それも山の中を男が二人で歩いて進むなんてどうかしている。
大体どうして、わざわざ林道を選んで歩かなければいけないのか解らない。
バカな弟に隠させたのが間違いだった。
「もうすぐ廃村に出るはずだよ。見覚えがある風景だ」
シルエットというしかないような風景を見て、見覚えがあるとほざく弟の言葉は疑いの念しか抱かせなかった。
一月も前に兄弟仲良くとは言えないが、銀行から現金を強奪した。
この話を持ち出してきたのは弟。
自己の会社の資金繰りが苦しいとかくだらない理由だった。
自分のケツを他人の札束でぬぐう気だったようだ。
普通の人間ならこんな与太話は跳ね除けておしまいだろう。あるいは説得にかかるのかもしれない。
だが俺は違った。
弟とは違い法律的に無知な俺は人を信用しきっていた。
信用しないはずがない。
信用していた相手とは目の前を歩く実の弟だったからだ。
連帯保証人という言葉をこの弟から身をもって教えられたのだ。
何も知らない俺は名義だという事だから『連帯保証人』の欄に名前の記入と捺印をしたのだ。
それがフタを開ければどうだ?
資金繰りに苦しくなったときに俺に初めて真実を語りやがった。
「僕が仮に踏み倒した場合は、兄さんがこれを払わなきゃいけないんだ」
その言葉を聞いたときには怒りの衝動しか出なかった。すぐさま胸倉をつかんで殴り飛ばした。
それでも弟は「安心しろ」とほざく。
「金さえ手に入れば何の問題もない。僕に考えがあるんだ」
言葉に続いて出てきたのが先ほどの案だ。
完全に俺の無知を手玉にとっての発言だった。
その場で殺してやろうかとも思ったがそういうわけにもいかない。
殺したところで苦しくなるのは俺の方だったからだ。
乗る以外の選択肢がなかった。
そのまま結局は銀行から運び出される現金を奪ってこの様だ。
強奪してもすぐには使えないとかで弟だけが隠しにここまできたようだ。
「今度は兄さんを裏切らないよ。信じてくれ」
やはり一度は裏切ったんだと苦々しく思いながら「裏切ったら俺は自首をする」とだけ述べておいた。
これでお互いを牽制しあい、今日に至るわけだ。
「兄さん、あれだよ。見えてきた」
俺の心を象徴するような廃村が目の前に見えてきた。
不気味な暗がりに浮かぶ朽ち果てた農家の群れ。
俺はその風景に心が同化したようだった。
「もうすぐで、僕たちは開放されるんだ。急ごう!」
そう言うと弟は駆け足で廃村の中に身を躍らせる。
「もうすぐ……」
弟の言葉を反芻するように俺は呟いた。
しばらくかけた後に弟は立ち止まった。
「ここだよ。間違いない」
一軒の農家の前で俺に振り向き言った。
もうすぐ……だ。
弟は農家の中に足を踏み入れて土間に俺を招き入れる。
真っ暗な中で俺は弟の手からライトを奪うと土間に光の筋を当てまくった。
朽ちる前に使われていたのだろう、薪割りようの斧やらクワがさびた表情で並んでいた。
「そんな所にはないよ」
俺はライトを口でくわえ、並んだ農具の中から斧を手に取った。
「こっちの中の方に……」
振りかえりながら案内しようとする弟にねらいを定めて両手を掲げた。
「ひ!」
右手を柄の末に添えるようにして一気に振り下ろす。
身を引いた弟は左腕を上げていた。
目測を誤った斧はガツンと硬質な音を立てたがわずかな血を飛ばし、弟を後方へ吹き飛ばすことはできた。
一撃でやり損ねたため、土間から這うようにして弟は農家奥へ逃げ込んだ。
四つん這いで赤子のように逃げる姿は滑稽としか言いようがなかった。
「や、やめてくれよ兄さん……僕たちは、運命共同……」
悪代官が逃げ惑うように右手を俺に向けながら尻で後ずさる弟。
先ほど以上に力を込めた俺は凶器を振り下ろした。
言葉を断ち切るようにして右の頚動脈に斧がめり込んだ。
金魚のように口をパクパクさせて目を開きながら何か言っているようだった。
「まだか……」
斧を抜きあげると粘着質な音を立てながら首から刃が外れた。
支えを失った体が仰向いたまま倒れる。
軽く痙攣している体に止めを刺すべく俺はもう一度同じ場所へ向けて斧を振り下ろした。
ズンと不快な音を立てて斧がめり込むと同時に痙攣はおさまった。
「あ〜あ……俺の大事な服なんか着やがって……」
弟に貸していたウィンドブレーカーまで一緒にグズグズになってしまっている。
瓜二つの顔を見ていると激情がこみ上げてくる。
ほぼ同じ時間に生まれた弟。
俺に似たその顔をもつわりには俺の人生を謝った方向へ導いた弟。
わずかな時間差でコレほどまでに人は歩む道が違うのかと思うと腹が立ってきた。
気がついたときには斧を振りかぶっていた。
しかしどうしても振り下ろせなかった。
同情ではない。
自分に一撃を加えるようで踏みとどまってしまった。
小さく舌打ちをして俺は上げた腕を下ろした。
「さてと……。お待ちかねの現金はどこだぁ?」
斧を片手に俺は農家の奥へ進んだ。
2
2005年 7月18日 20:25
俺は現金のありかをしっかり聞かずに弟を殺してしまったことを少し後悔した。
暗い農家の中のどこへ隠したのか容易に見つけることができなかったのだ。
それだけじゃない。先ほど弟を始末した方からかすかな物音が聞こえたのだ。
嫌な予感がする。
俺は足音を忍ばせながら先ほどの部屋の方へ移動する。
「こ、こ、これって本物の……し、死体!?」
弟が息でも吹き返したのかと思っていたがどうやら違った。
それより遥かにマズイ事態だ。
変な女が死体を発見してしまっていた。女は手についた血を見て震えている。
口を封じなければ……
女が悲鳴を上げる体勢を取ったと同時に飛び出すと声も出ない様子でこちらを見ていた。
そこへめがけて躊躇なく斧を振り下ろす。
声が出せない程だというのに身を翻す速度は速かった。
女は慌てながらではあるが一気に出口めがけて駆け出した。
「チッ!」
大きめの舌打ちをして俺は急いで追いかけた。
土間のあたりでこちらにめがけて何かを投げつけてきたが構わず詰寄ると女は再び駆け出した。
廃村の中を小動物のような勢いで逃げるためかなり素早かったが、俺は先回りをするようにして女の前に回りこんだ。
悲鳴を上げるかと思ったがそんな余裕はないとばかりに女はきびすを返して再び走り出す。
体力の続く限り逃げようという腹づもりだろう。
そうはさせるわけにはいかない。
俺は一気に間合いを詰めると、女は何を思ったのか林の方に飛び込んだ。
進みづらくなるだけだから俺にとっては好都合だった。
と思ったが女は俺より一枚上手だった。
ギリギリの距離まで俺を引きつけると振り下ろした斧を横っ飛びに避ける。
勢い余った斧は深々とめり込んでしまった。
その隙を見て女は一気に奥の方へ逃げていく。
焦りながらも必死で斧を引き抜くと、その頃には背中がかろうじて見える距離になってしまっていた。
「クソ!」
歯軋りをしながら見失わないように、出る限りのスピードで背中を追う。
しばらく追いかけると女は一度立ち止まってこちらを振りかえった。
一定の間隔で聞こえる小さな音からそこが川であることがわかった。
追い詰めた!
そう思いながら近寄ると女は真横に向かって走り出す。
しつこい動きに俺は焦り以上に怒りが込み上げてきた。
茂みを抜けて女の方向へ一気に駆ける。
川沿いは足場が悪く、思うように速度が上がらない。
それは女も同じようで、明らかに減速していた。
逃がすまいと追いかけると、突然女は前のめりに倒れた。
石に足を取られて転んだようだ。
立ちあがる前にその場まで一気に駆け寄ると、女は弟がやったのと同じような動きを見せ、尻で後ずさる。
「や、やめて……」
か細い声で懇願する表情は俺の心を軽く刺激した。
しかしそんな願い入れを聞きうけることなどできるはずもない。
ゆっくりと両腕を振り上げて、一気に振り下ろしたそのときだった。
「ぐ!」
女は生意気にも足元めがけてタックルをしてきたのである。
足場の悪さでバランスを崩してしまい仰向けに倒れてしまう。
足元にしがみついた女を蹴り飛ばすと軽く後方へ吹き飛んでいった。
「舐めやがって……」
今の攻勢で唇を噛みきってしまった。
憤りを込めた足取りで女に近づくと今度は漬物石のような物を投げつけてくる。
一瞬よけたつもりだったが、足の甲に命中してしまい悶絶する。
俺の様子を見て再び女は走り出した。
後を追おうとするが確実に先ほどより速度が落ちてしまった。
それでも必死で走る。
「逃がすものか……」
足の痛みを堪えながら走ると、女の速度が徐々に落ちているのが解った。
スタミナが切れてきたのだろう。
俺には幸い、まだスタミナは残っていた。
廃村の前を通り過ぎ、距離が詰まると眼前には開けた場所に止められた車が目に入った。
「あれに乗りこまれるとマズイ!」
女が這うようにしながら車に近づいたが、俺はその間に一気に詰寄る。
ドアの部に女の手がかかったときに俺は痛む足で女の手を押さえつけた。
「そ、そんな……」
再び蹴り離すとダメージがあったのかうずくまった。
今度こそ失敗は許されない。
俺は背中を向けている女に近寄ると柄の部分で女の首を締め上げた。
「う!」
ここちいい小さなうめき声をあげて女は柄を握って離そうとしたが、俺は引き寄せる腕に力を込めた。
もがくようにして女は首を横に向けたときに勝負は決まった。
微かな振動の感触と骨の砕ける爽快な音が聞こえた。
それでも念のために締め上げると女の体からは完全に力が抜けた。
開放してやると糸の切れた操り人形のように地面へ崩れ去る。
「乗りたかったんだろう?」
俺は含み笑いをしながら女を抱き上げて車の後部座席を開けてそのまま放りこんだ。
ドアを閉めようとすると女の足が引っかかって完全には閉まらなかった。
俺は一息ついて当たりを見ると、奇妙なものを発見した。
テーブルが出ていたのである。
キャンプ用に使う折畳式のテーブルだ。
近寄って見ると、テーブルの中央にはランタンに敷かれた一枚の紙があった。
『お前を探しに廃村へ行く。
これをもし見たら、そのまま待っててくれ
藤宮へ』
何ということだ!
廃村へまだ誰かが向かっているというのか!
一体何人だ!?
あの死体を発見されてはマズイ。
こうなったら残らず殺すしかない。
その為には脱出を阻止しなければ。
おそらくこの車でやってきたのだろう。
車で来るということは下山するまでにしばらく時間を要するということだ。
ならば走れなくしてやれば良い。
俺は車の方へ振りかえり給油口付近に斧を振り下ろす。
硬質な音を上げるが何度も何度も振り下ろす。
次第にボディはひしゃげ、液体が滴り落ちてきた。
ガソリンさえ流れ出てしまえばもう走れまい。
俺は廃村へ向かうことにした。
しかし束になった状態で見つかっては勝ち目がない。
ここはひとまず川の方から茂みを抜けて隙をうかがうことにした。
3
2005年 7月 22:30
ひとまず俺は弟の死体がある農家の方へ向かった。
最悪、現金だけでも持って逃げる方法を取っておきたかったからだ。
周囲を警戒しながら農家の中へ再び足を入れる。
目を見張らせ、耳を澄ませて気配をうかがうが誰もいないようだった。
安堵の息を漏らして、俺は急いで金を探すことにした。
しかしその時である。
空気を震わせるような爆音が一面に轟いたのだ。
警戒しつつも表へ飛び出すと遠く離れた位置から煙が上がっている。
その方向は先ほど女を始末した場所の方向。
爆発したのは車だろう。
いや、自然に爆発などしないだろう。誰かが爆発させたのだ。
あの女を捜していたメンバーだろうか?
今あの場所へ戻れば正確な人数を把握できるのではと思った。
しかし先に現金を見つけておく方が先決ではないか。
二つの思考が脳内で衝突する。
しばらく逡巡したのち俺は爆発の方へ向かうことにした。
相手がいきなり行動してるともつかないのでゆっくり警戒しながらではあるが、着実にその方向へと向かっていく。
もう少しというところで再び足の痛みがぶり返す。
あの女の呪いでも込められているかのようだった。
うずくまって足を押さえつけると徐々に痛みが引いていった。
一度川の方面へ抜けて足を川の中へ突っ込んでおいた。
すぐに引き上げて、靴に足を収めると先ほどより遥かにマシだった。
これで移動もそれほど苦にはならない。
川の方から車の方へ再び向かっていく。
目指す方向は一目瞭然だった。
闇に包まれている一箇所だけがオレンジの光を放っており、そこから黒煙が立ち上っていたからだ。
目に映るその光景が徐々に近づいてきたので斧を持つ手に力を込める。
木を盾にするようにして俺は様子をうかがった。
車の前には一人の男がいた。
周囲を見るが、他に人の気配はない。
男の脇には毛布の上に寝そべった女の姿がある。
俺が手にかけた女だ。
どうやら後部座席から引っ張り出したらしい。
女ごと爆破したのかと思っていたが、さすがにそれは無かったようだ。
男は両手で顔を覆って上を向いていた。
やるなら今しかないか……。
いや、まだ様子を見た方が良いだろう。
あの男が一人で行動するまでどこに誰が潜んでいるか解らないためだ。
男はその場にしゃがみ込み何かを掴んでいた。
握った先に炎の光が反射してる。
小型の包丁を握っているようだった。
自衛のためか何なのか武装したつもりらしい。
バカな奴だ。
こちらの獲物が何かわかっていないのだろう。
いや、もしかすると何かしらの武道でもやっているのだろうか。
今までの初めから無抵抗ではない人間とは違うと考えておいた方がよさそうだ。
頭の中で色々自分なりの分析をしていると男は突然走り出した。
一瞬のできごとに俺は困惑してしまう。
かぶりを振って困惑を振り払い男が走り去っていく方向を目で追う。
男は廃村の方へめがけて走っていく。
もしかして、何かあるのだろうか!?
一気に不安が押し寄せてくる。
俺は少し距離を開けて男の背中を追った。
何の目的があってこの男は走っているのだろう。
廃村の奥の方まで走ると男は突然振りかえった。
隠れることなく追いかけてしまったため、俺は姿を晒すはめになった。
そして男は言った。
「鬼さん、こちら、だ!」
4
2005年 7月18日 23:40
「俺が気づいてないとでも思ったのか?」
男は不適な笑みを見せながら俺に向かって言った。
正直、男の言う質問には「気づいていなかった」と答えるしかなかったが、それはしなかった。
答えてしまうと相手の術中にはめられてしまう気がしたからだ。
「まぁ、気づいたのはついさっきだけどな。俺が車の前でコレを手にとった後だよ」
そう言いながら男は包丁を振って見せた。
「光で反射したときにお前の姿が刃の部分に映ってた。間抜けに気の陰から見てる姿がな」
「なら……。なぜここまで走ってきた?」
俺は思わず聞き返してしまった。
「それは言えないな。どうして俺がここまで来たのか解らないだろう? 歯がゆいだろうな」
イライラとする口調で言葉を投げつけられて、俺の足は憤りで前へと進んでいた。
「やる気だな? いいぜ。俺も腹を決めたからな。死んだ藤宮の仇……だ……」
俺が近づくと男は突然言葉を途切れさせた。
「う、嘘だろ!? そ、そんなはず……」
そう言ったかと思うと男は再び走り出した。
安易に追いかけて良いものか迷った。あの女(藤宮というのか)……の時のこともある。窮鼠猫を噛むような罠を用意しているかもしれないと思い、一定の距離を保つように追いかけた。
徐々に走っていくと見慣れた場所へ走っているようだった。
俺が弟を殺した場所……。
現金が隠されているはずの場所……。
俺は一つの推理を浮かべていた。
もしかしたら弟はすでに『仲間』を呼んでいたのではないか?
人気のない寂れた廃村に俺を連れてきて殺すつもりだったんじゃないのか?
そして隠した金を別の『仲間』に回収させに来たのではないのか?
それがあの男とあの女だ。
だからこそあの女は廃村のあの場所へ来たのではないか?
しかし帰ってこないことに不安を感じた男はあの女を捜しに行き、そして戻ったときにあの光景を目撃した。
弟の映像が頭の中で現れてくる。
どこまで俺の邪魔をするつもりなんだ!
怒りが込み上げてきたがここは冷静にならなければマズイと思った。
男は弟の死体がある農家へ飛び込んで行った。
突然俺の中であることが閃いた。
俺の推理ならあの男は現金を手に入れに来たはずだ。
つまりは現金のありかを知っていることになる。
ならあの男が見つけた瞬間に襲いかかり、殺して反対に俺が回収してしまえば良いのではないか!
自分の妙計に含み笑いが漏れてしまった。
どちらにしろこの農家に出口は一つだ。
建物の陰に潜んで出てくるのを待てば良い。
俺が入り口脇に身を潜めてしばらくすると男は呆然とした顔で現れた。
今だ!
出てきた男に飛び掛ると男は先ほどまでとは違う怯えの表情を見せていた。
辛うじて避けた様子の男は「ひ!」と小さく悲鳴を上げた。
手に持った包丁をこちらに投げつけると背を向けて走り出した。
しかし男は金を持っていなかった。
それに様子が明らかに違っている。
取り敢えずここは男を捕まえて問い詰めてみるのが一番だ。
男は車があった方へ走っていく。
逃げ切られないように今度は全力疾走で俺も追いかけた。
何度か振りかえりながら男は走っていたが、前を向いて走っていなかったため足をもつれさせて転倒した。
「た、助けてくれ……」
赤ん坊がハイハイするような形で顔だけこちらに向けて男は逃げている。
「助けてやっても良い。ただ、質問に答えろ」
「……へ!?」
拍子の抜けたような声を出して男は口を開けたままになっている。
「お前はあの場所に何をしに行ったんだ?」
「あ、あの場所って!?」
「お前がさっき飛び出してきた農家だよ。何をしに行ったんだ?」
斧を振りかぶったまま俺は出る限りの低い声で問い詰めた。
「か、か、確認だよ。……い、生きてるんじゃないかと思って」
「生きてる?」
「お、お、お前が生きてるかどうかを確認しに行ったら、お、お前がいたんだよ」
「金を取りに来たんじゃないのか?」
「か、金!? な、なんだよそれ……知らないよ」
「本当か?」
「ほ、本当だ」
ならこの男は一体何をしに行きたかったのだろう。
俺を確認とかわけの解らないことを言っていたが……。
首を傾げた俺に男は突然突っ込んできた。
警戒していた俺は避けると斧を振り下ろす。
腕に微かな手応えを感じたが致命傷ではないようだった。
男の背中は右下がりに裂けて血が流れ出していた。
「くそ……!」
男は突っ伏した手を伸ばして何か握ると体を返して俺とにらみ合う形になった。
だが避ける体力はそれほどないだろう。右手を突き出した男を笑うように再び斧を振り上げると突然目に何か飛び込んできた。
「ぐわー!!!」
焼けるような熱さが目を襲い視界が半分奪われてしまった。
「……へ、へへ。命中したな」
男が手に握っていたのはロケット花火だった。完全に意表を付かれた攻撃に俺は多大なダメージを受けてしまった。
よろけながら男は立ちあがって再び逃げ始める。
追いかけようとすると俺のほうへまた右手を伸ばし、花火を発射させてきた。
先ほどのダメージのせいか俺は見事に怯んでしまう。
何発も発射されるたびに距離をあけてしまう。
「殺してやる……」
斧を握り手に再び力を込めて花火を警戒しながら俺は足を進める。
すると聞こえ覚えのない声が前方から飛んでくる。
「……半田!」
その声が届いたと同時に男は前のめりに倒れた。
先にこのまま男を殺してしまうしかない。
倒れた男に振りかぶった。
「半田、うしろだ!」
一気に振り下ろしたが余計な声のせいで男は転がって避けた。斧はむなしく空を切り地面にめり込む。
前方で叫んだ人影がこちらに向かって走ってくる。
手には角棒を握っている。
このまま戦っては分が悪いと思い俺はきびすを返して廃村の方へ走った。
「くそ! まだいやがったのか……」
伏兵がいたとは意外だった。
いや、初めから人数の把握を怠った俺のミスだった。
こうなった以上は現金だけでも手に入れてこの場を去るしかなかった。
くそ忌々しい廃村の口へ俺は走り込んだ。
廃村を舞台にした殺人劇の真犯人『殺人鬼』は誰かお答えください。
全てのヒントは『廃村の謎』の中に隠されています。
基本的なルール
・表示された時刻は日本標準時である
・登場人物の氏名、性別の表記に嘘はない
・真犯人は単独犯である
以上のことをふまえた上で
1.犯人の名前
2.犯人を特定するにいたった推理のプロセス
3.結果発表時のHNの表示可・表示不可
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