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廃村の謎 〜解決編〜

     1

 2005年 7月22日 10:50

 一室のドアの前で俺と石原は立ち止まった。
 硬質な音を2度ほどドアに打ち鳴らすと中から返事が聞こえてきた。
「入るぞ」
 スライド式のドアを開けると中には思った以上に生命力みなぎる笑顔をしている半田がいた。
「元気に生きてるじゃないか」
「生憎、まだ神様にお世話になるほどの費用は持ってないんでね」
「地獄のさたも金次第っていうけどな」
 お互い皮肉を言い合いながら笑みを漏らした。
 あの事件以来、半田とは会っていなかったのだが何故か以前より会話が弾む仲になっていた。
 生死を共にした戦友の気持ちとでも言えばいいのか。
「もう体調は良いの?」
 甘い生命力があふれたフルーツ籠を前に差し出しながら石原が言った。
「ありがとう。もう大丈夫……と言いたいところだけど、やっぱり傷は軽く痛むね」
 フルーツに向けてなのか、それとも石原に向けてなのか定かでない礼を述べながら、半田は親指を立てて背後を指して苦笑いした。
「そっか……。あれだけの傷だもんね……」
「よく生きてたもんだ。そのおかげで殺人鬼も逮捕されたんだから、貢献力の高い生き方だと言えるけどな」
 俺の皮肉口調にしかめ面を浮かべて石原が肘でわき腹を小突いてきた。
「……こんなこと言うのはアレなんだけどな。お前には感謝してるんだぜ?」
 突然の告白めいた言葉に俺は背中が痒くなってしまった。まだこの手の言葉には慣れていない。
「私もよ。司馬くんがいなかったら、私たちどうなってたか分からなかったんだもん」
 小突いてきた先ほどの顔と違った和やかな表情で石原も言った。
 『……感謝サレルノモ、悪クナイダロウ?……』
 お人よしの『アイツ』が俺に語りかけてくる。不思議と俺は『アイツ』の言葉を受け入れられるようになっている。
「半田が生きてたのは俺の判断力じゃないさ。相手に対して機転が利いた半田自身のお手柄さ」
「変に謙虚で気持ち悪いって」
「減らず口叩くくらいなら寝てさっさと傷を治せよな」
 こういった関係も悪くない。半田の言葉が俺の中で心地よく響いた。
「そうだ。半田君もニュース見た? あの事件の」
「ああ。見たよ。捕まったんだな、あの殺人鬼」
 複雑な顔をしながら半田は答えた。
 ニュースを見たときは俺も確かに同じ気持ちだった。
 殺人鬼そのものの逮捕には手を打って勝利を感じれたが、どうしても藤宮の事を思い出してしまうからだった。
「でもよ、まだわからないんだ。捕まったあの殺人鬼は死んでたはずだろう?」
「何だ? 警察から事情は聞かなかったのか?」
「捕まえた事は確かに聞いたけど、それだけ聞いて他には聞かなかったよ……。藤宮の事を思い出してしまうしな」
 そう言うと半田はシャツの胸元を掴んで悔しそうな表情を浮かべていた。
「ニュースでもその辺の事は言ってないみたいだったし。俺からすれば殺人鬼に違和感しか残ってないんだよ」
 確かにニュースでは詳しくは言っていなかった。
 あの殺人鬼『鎌井達夫』が『双子』だったことを。

     2

 俺から殺人鬼が『双子』だったことを聞いた半田は目が落ちんばかりの顔で驚いていた。
「で、でも! 捕まった男は鎌井達夫だったんだろ!? あの免許証を持っていた死体が鎌井達夫じゃなかったのか?」
「考えてみればおかしなことだったんだよ。あの時の死体は」
「ど、どういうことだ?」
 半田は不可思議さが抜けないのか表情を固めたまま聞き返してきた。
「死んでいたあの男は腕時計を『左腕』にしてただろう? ってことはあの男は右利きなはずだよな?」
「ああ。そうなるな」
「でもウィンドブレーカーに免許証が入ってたポケットは『右内側のポケット』だった。普通、右利きなら取り出しやすい『左内側のポケット』に免許証を入れてるはずだろう? それが逆だった」
「って事は、あのウィンドブレーカーは死んでいた男のものじゃなかったのか!?」
「そうだよ。そしてお前の背中の傷口もそうだ」
「俺の傷口?」
 振り向こうと体をひねった時、半田は顔をしかめて「痛てて」と漏らした。
「背中の傷口は『右下がり』についてるだろう? 右利きの人間が振りかぶって袈裟切りに振り下ろすと『左下がり』の傷痕になってたはずだ。それが全く逆。つまり殺人鬼は『左利き』なんだ。でもあの死んでいた男は『右利き』だ。つまり死んでいた男が持っていた免許証は本人のものじゃないんだよ。ウィンドブレーカーもそうじゃないようにね」
「そうか……。だから殺人鬼が鎌井達夫だってことなんだな」
 無言で頷いて見せると半田も納得いったような顔をしていた。
「殺人鬼については納得いったよ……。でもあんな動機だけで藤宮が殺された事は納得いかない」
「それは私たちだって一緒よ。自分がまいた種を、自分が殺した人間を見られたからって口を封じようなんてどうかしてるわ」
 下唇をかみながら悔しそうに石原は言葉を吐き捨てる。
 確かに全くもってくだらない理由だろう。
 だが自分が同じ立場ならどうしていただろうか?
 過去の俺は間違いなく鎌井達夫と同じ行動をとっていただろう……。
 『……僕ガ、ソンナコトハ、サセナイサ……』
 自分を止めるべく『アイツ』は俺に語りかけてきた。
 そうなのかもしれない。
 鎌井と俺の違うところは自分の分身を受け入れられなかったところだろう、と思うのだ。
 俺は自分自身の生き方に過去疑問を抱いていた。
 自分の意見は通らず、周囲からは冷たい視線でしか見られなかった。
 自分を殺してやろうと何度も考えた事があったときだった。
 その時『アイツ』が俺を閉じ込めるように出てきたのだ。
 今思えば『アイツ』は俺が生きる術を探そうとしてくれていたのかもしれない。
 違う生き方を俺に見せながら、その中で感じるものを見ろと……。
 廃村で風景を見たとき、自分が無性に出たくなったのも本来の自分と再び戦おうとしていたからなのかもしれない。
 『アイツ』は俺に対して不安をまだ持っていたのか拒否していた。
 しかし危機的な状況で『アイツ』は俺を解放した。
 あのときの口調は俺がまた自分を殺そうとした時には、もう手助けができないという不安があったからだろう。
 でもイチかバチかの賭けに『アイツ』は出たのだろう。
 あの事件が終わったときには俺は再びバトンタッチを試みたが『アイツ』は拒否をした。
 『……シバラクハ、君自身デ、見ルモノガアルダロウ……』
 俺は殺人鬼が現れた事で過去の自分と戦っていたのだ。
 殺人鬼に負ける事は過去の自分自身を肯定してしまうようで、負けるわけにはいかなかった。
 鎌井達夫は自分を否定する心を人に向けてしまっていたのだろう。
 自分の分身とも言うべき弟にその矛先を向けてしまった事で歯車が完全に狂ってしまったのだろう。
 その犠牲は藤宮にまで及んでしまっていた。
 俺もどこかでズレていれば鎌井達夫と同じ末路をたどっていたかもしれない。
 『……今ではお前に感謝してるよ……』
 自分の分身に語りかけると『アイツ』が笑ったような気がした。
「藤宮の分まで俺たちは生きなきゃいけないな」
 俺がボソっと呟くと弾かれたように石原と半田はこちらを向いた。
「司馬くん……」
「お前……」
 不振な顔をして俺を見てくる二人に俺は戸惑った。
「何だよ! 変な顔しやがって!? 俺、おかしなことを言ったか!?」
「ち、違うのよ。あの時以来、司馬くんが変わっちゃった気がしてたから……」
「ああ。皮肉っぽい口調が抜けてるから。拍子抜けしたんだよ」
 二人は俺の『アイツ』の部分をイメージしていたんだろう。
 やはり好かれるのは『アイツ』なのかと思うと少し悔しかった。
 『……今ノハ、君自身ノ言葉ダ……』
 『アイツ』の言葉が響いたときに石原と半田は声を揃えて俺に言った。
『これからもヨロシク』
 言葉を受けて、俺はやっと元の自分に帰れたような気がしていた。


結果へ
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廃村の謎 〜謎編〜 へ
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