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神の視点 〜問題編1〜

     1

 2008年 2月14日 12:30

「売れっ子作家、桜木圭先生の新刊記念イベントにようこそお越しくださいました」
 満面の笑みを浮かべながら風祭りおは会場に集まった桜木圭ファンに恭しく挨拶をした。
「本日はバレンタインという事もあり、桜木圭先生からチョコレートのプレゼントもございます」
 嬉しい知らせにファンたちは「サイコー!」など声を上げながら驚喜している。
 桜木圭は様々な小説を執筆、発表しそれらは殆どがヒットを飛ばしている。
 それだけではなく、28歳という若さと美貌を持ち合わせていたため世間からは注目の的であった。
 小説だけにとどまらず写真集までだし、それも他のグラビアアイドルに匹敵する売れ行きである。
 今回のバレンタインイベントはファンの中でも男性のみ参加が許されたものである。
 もちろんイベントに殺到する男性ファンは多くいたが、抽選という方法をとり会場には20名の男性ファンだけが入ることができていた。
「ただしチョコレートは手作りのものだそうで、皆さんの中から1名の方へのプレゼントとなります」
 風祭の言葉を聞くと会場は驚喜からざわついた雰囲気へと変わった。
「幸運な一名は誰なのでしょうか? 後ほど番号抽選を行いますので入場の際手渡された番号カードを落とさないようにしていただきたいと思います」
 慌しく表情を変えるファンを見ながら風祭りおは思った。
 この人気ぶりは何なのだろう。
 作家の腕はもちろんだし容姿も端麗。
 申し分ない魅力があるのは解るが自分も世間一般では美人の部類に入ると自負している。
 今日はイベントの進行役であり仕事終わりも桜木圭を含めた関係者と打ち上げがある。
 バレンタインという日で色んな男からも今日の予定を聞かれ、誘われていた。
 仕事優先もあったが悦に浸る思いで全ての申し出を断ってこの場にいる。
 それが会場に入った途端、全く見向きもされない始末。
 別にファンに見向きされる必要はないが、関係者の男性人も視線は全て桜木圭へと注がれていた。
 ため息などつくこともできず劣等感を押し殺して進行を再開した。
「さぁ、それでは皆様お待ちかねの桜木圭先生に登場していただきましょう! 桜木圭先生、どうぞ!」
 紹介と共に現れた桜木圭にファンたちは先ほど以上の歓声を上げていた。

     2

 2008年 2月14日 13:00

 会場に笑顔で現れながらも桜木は心の奥で毒づいていた。
 こんなくだらないイベントなんてどうしてしなければいけないのよ。
 会場を見渡すと集まっている男たちはどうみても写真集がらみでファンになったタイプの男ばかり。
 今日発売の新刊小説なんて本当に理解しえる雰囲気は持ち合わせていない。
 本来なら20名分のチョコレートを手作りするところも面倒だから一つにしてもらった。
 それはそれで販促の担当者である鬼山悠が「一つの方がプレミア感があっていいじゃないですか」とか勘違いした方向で承諾してくれた。
 イベントは1時間を予定されている。
 さっさと終わってくれればとも呟けないまま「皆さん、今日はおこしいただきありがとうございます」と恭しく挨拶して見せた。
 20名とは思えないくらいの熱気と拍手が会場を包み込んでいる。
「すごい人気ですね桜木先生」
「これだけの方たちに新刊を読んでいただけるというだけでも嬉しいですね」
「その新刊ですが、こちらは特別な思い入れがあって執筆されたという事ですね?」
「そうなんです。私が敬愛する作家の江戸川乱歩先生の作品を踏襲させていただき書き上げたものなんです」
「大作家の江戸川乱歩先生ですか」
「はい。先生の作品は全て読んでいますし、私が作家になるキッカケにもなったお方ですので。その分今回の執筆は先生の名前に泥を塗らないようにというプレッシャーとの戦いでした」
 私は読み潰した江戸川乱歩の小説を取り出し会場に披露した。
 表紙はボロボロになり手垢がびっしりとついている。
 それでも一ページ開くごとに溢れる世界の素晴らしさを会場のどれだけの人間が理解できているのだろうか。
「かなり読み込まれていますね。今回の作品への意気込みと完成度の高さを期待させてくれますね」
 進行する風祭の笑みもうそ臭く感じながら私は頷いて見せた。

     3

 2008年 2月14日 13:40

「それでは皆様お待ちかねの本日の目玉とも言える桜木先生の手作りチョコレートの抽選会を行いたいと思います」
 会場からは歓声と拍手が荒波のように押し寄せてくる。
「皆さんがお持ちに番号札。桜木先生がこの抽選箱から取り出します。お持ちの番号札と抽選箱から取り出された番号が同じ方にチョコレートがプレゼントされます」
 風祭が会場に立方体の白い箱を見せると同調したようにファンたちは自分たちの番号札に目を落としている。
「桜木先生、それでは選んでください」
 会場の視線は桜木の手に注がれている。
 細い指が立方体に切り抜かれた丸い穴に入っていく。
 先ほどまでの歓声などがこの僅かの間は静寂へと変貌している。
 するりと取り出されたカラーボールを見つめてから桜木はボールを会場へと向けた。
「18番!」
 風祭が会場へ向けて大きく声を発するとため息と落胆の声が入り混じっている。
「18番の方ですよ? おられませんか?」
 告げられた番号の持ち主がなかなかでてこないので、ファンたちは周囲の番号を覗き込み、風祭も「おられませんか?」と戸惑いの表情のを浮かべている。
「ぼ、ぼ、ぼ僕です!!」
 空気を一変させるような大きな声でボサついた髪の青年が手を挙げた。
「あ! おめでとうございます! どうぞこちらの方におこしください」
 静まり返った会場を盛り上げるべく率先して風祭が拍手をすると、つられるようにして周囲から拍手が上がった。
 震えるような足取りで壇上に辿り着いた青年をエスコートするように風祭は桜木の隣に立たせてやった。
「改めておめでとうございます。緊張なさってるようですね」
「……は、はぃ」
 消え入りそうな声を出しながら何度かチラチラと桜木のほうを青年は見ていた。
「そうですよね。隣には今をときめく桜木先生がおられますからね。それではまずは幸運な方のお名前を伺ってみましょう。お名前は?」
「……のわ」
 マイクを向けられても会場に響かないほどの声で名前を告げる青年。
「のわさん? でよろしいですか?」
「箕輪! 箕輪駿です!」
 突然割れんばかりの大きな声で名前を訂正したので風祭はビクっと肩をすくめてしまう。
「し、失礼しました。箕輪さんですね。年齢などうかがってもよろしいでしょうか?」
「26歳、会社員をしています! 今日は憧れの桜木先生に会えると思い昨日は夜も眠れませんでした!」
 聞かれてもないことまで連々と大声で答えている。
 会場からは失笑が漏れていたが風祭は落ち着きを取り戻しつつ先に続けた。
「そうでしたか。今日はその思いが通じたのでしょうね。桜木先生に会えていかがですか?」
「も、もう死んでもいいです!」
「て、天にも舞い上がるほどの嬉しさという事ですね」
 あまりの豹変振りにフォローを入れるのも手一杯になってしまう。
「そ、それでは早速ですが桜木先生からチョコレートを手渡していただきましょう。皆さん盛大な拍手を送ってあげてください」
「おめでとうございます。どうぞ」
 桜木が微笑みながらチョコレートを手渡すと会場からは拍手が巻き起こった。
 しかしその拍手は突然やんでしまう。
「い、痛い」
 箕輪はチョコレートではなく桜木の手を握ったまま離そうとしなかったのだ。
 その光景を見て会場からはブーイングが飛び交い「離せー!」と怒号にも似た声が沸きあがる。
「ぼ、ぼ、ぼ、僕の運命の人なんです先生は! ずっと夢にまで見てました。好きなんです! こ、こうやって選ばれたのも運命としか思えないんです!」
 目を見開き自分の思いを告げる箕輪に危機感を覚えたのだろう、壇上には一人の男が駆け上がってきた。
「お離しください!」
 男性は箕輪と桜木の間に割って入り、無理やり手をほどく。
 引き離された箕輪は警備員二人に腕をつかまれどんどん距離を開けられていく。
「は、離せ! ぼ、ぼ、僕と圭の運命の邪魔をするな! 離せー!」
 声を張り上げる箕輪はそのまま会場から連れ出されていく。
 会場は重い空気に包まれており、桜木は肩で息をして震えていた。
「大丈夫かい、圭? 控え室に戻ろう」
 男が伝えるとかすかに頷き桜木はおぼつかない足取りで壇上から降りていく。
 そのまま風祭に男は耳打ちすると桜木を追って壇上から降りていった。
「え〜……。桜木先生は少し気分が優れないようで、皆様には申し訳ありませんが本日のイベントは終了とさせていただきます。最後に桜木先生に拍手をお願いします!」
 風祭が急な展開を収束させるべく伝えると、会場からはまばらな拍手と不満の声が上がっていた。
 こうして重い空気が流れたまま新刊のお披露目イベントは終了となった。

    4

 2008年 2月14日 14:15

「どういうことよ! あんな事になるなんて聞いてないわよ!」
 ヒステリックな声を上げる桜木を落ち着かせるようにマネージャーの日比谷亮は「もう大丈夫だよ」と声をかけている。
「だから嫌だったのよ! こんなイベント! 新刊と何にも関係ないようなチョコレートだ何だって! 私の小説を理解できるようなヤツ、来てなかったじゃない!」
「ほら、みんなこんなことが起きるなんて予想できないじゃないか。たまたまおかしなファンが混じってただけだろう」
「たまたま混じってた? 馬鹿なこといわないでよ! 他の連中だってどうせ同じような輩だったに違いないわよ! こんな販促イベント企画するなんて、鬼山さんあなたを信用してたのが馬鹿だったわ! どう責任を取ってくれるのよ!」
 なだめる日比谷を押しのけるように立ち上がると桜木は鬼山悠に詰め寄った。
「も、申し訳ございません!」
「謝れば済むとでも思ってるの? 私はどう責任を取るかって聞いてるのよ!」
 さらに詰め寄る桜木に気圧され鬼山は額に浮かぶ汗をぬぐう事もできずひたすら平伏している。
「すみません鬼山さん。今はまだ桜木も動揺してます。後ほどご連絡差し上げますのでお引取りいただけますか?」
「は、はい。申し訳ございません!」
 何度も頭を下げて控え室を出ようとする鬼山に向かってまだ言い足りないのか桜木は声にならないような叫びを続けている。
 怒声を背に受けながら控え室のドアを閉めると一つ息をついて鬼山はネクタイを緩めた。
 廊下は僅かな冷気をたたえていたがそれでも吹き出る汗は止まらなかった。
 大空書店の販促を任されて以来の大きな仕事だった。
 他の書店でも同様の企画が上がっていたのを押さえ込んで権利を獲得できたというのに、この結果ではむしろ権利放棄していたほうが良かったとさえ思ってしまう。
 気難しい性格の桜木圭のことである。
 今回の事件で書店から一切の小説や写真集を撤退させるとも言い出しかねない。
 そんな事になれば売り上げ向上どころか一気に売り上げを落とし込む事になってしまう。
 せっかく会社からも期待され始め、生活も安定してきた。
 そのこともあり以前から交際していた彼女とも結婚する事ができた。
 下手をすれば生活が脅かされてしまう。
 そう考えると治まりかけた汗が再び体中からあふれ出てきた。
 そこに少しばかり慌てた様子を浮かべただけの大空書店店長の門戸仁が現れた。
「大丈夫ですか、鬼山さん?」
「……これが大丈夫に見えるか?」
「いやぁ、マズイですよねそりゃ。さてこれからどうしたもんでしょうか」
 まるで他人事のように話す門戸の胸倉を掴んでいた。
「どうしたもんでしょうかじゃないだろ! もっと危機感を持たないか!」
「い、いや、そりゃ危機感はありますよ。僕に当たったってどうしようもないじゃないですか」
「お前のどこに危機感があるんだ? いつもそうだ。お前が置くようにしてきた本のせいでこんな事にもなってるんじゃないのか!?」
「そんな、人のせいにされても困りますよ!」
 門戸は鬼山を振り払い襟元を正した。
「今までは様々なジャンルの小説なんかを取り扱っていたのに、今じゃどうだ? お前が選ぶ本はやれアイドルの写真集だ何だ。以前と客層が変わるようなオタク好みの本ばかり置いてるじゃないか!」
「時代の流れを考えればそうでしょう。オタクが市場に貢献する大きさは解るでしょう!? お堅い文字だけの分野で業績を上げよう立って限界がでてきてるじゃないですか。それでも主力になりそうな本を省いた事なんてないでしょう!」
「その割合がおかしいから今回みたいなおかしなヤツが出入りするようになってるんじゃないのか!? 以前までのイベント企画ではこんな事はおきてなかっただろう!」
「今度はお客さんのせいですか。そんなこと言うなら客に見合った企画を作ればよかったんですよ。おかしなヤツが喜ぶような企画を立てるからこんな事が起きたともいえるじゃないですか!」
「……ははは。そうかい。ならそう思っておけ。もし俺の首が飛んでも次はお前になるんだぜ? 今回の失敗の要因の一つが客層にあるとなればそんな売り場展開をしたお前にも矛先は向くってもんだ。全て俺のせいにするならそれで構わないさ。俺は俺であの先生に詫びを入れるだけだ。お前も売り場の責任者として頭の一つ下げるくらいしておかないと、あの先生なら直接お前の首が飛ぶようにだって仕掛けてくるかもしれないぜ」
 怒りを直接叩きつけるより効果的だったのか門戸は始めて自分の置かれた立場に焦りを露にした。
「ちょ、ちょっと待てよ! 連帯責任じゃないのか!?」
「お前から言いだしたんだ。俺は自分なりに責任を取る。お前は自分で責任の取り方を考えるんだな」
 吐き捨てるようにして鬼山はその場を後にした。

     5

 2008年 2月14日 15:00

 桜木と日比谷が書店の裏口から出て行こうとするところへ門戸は駆けていった。
「はぁ、はぁ、こ、この度は申し訳ありませんでした!」
 息を切らせながら二人の前に回りこみ頭を下げる。
「あなたは?」
 日比谷の声に頭を上げると「大空書店で店長をしております門戸仁です」
「この度は何と言いますか、本当に申し訳ありませんでした」
「あなたがここの店長さん? で、何がどう申し訳ないの? 言ってみなさいよ」
「は、はぁ……その何と言いますか……」
「どうせ何も考えてないんでしょう? そんな顔してるわよ」
「おい、圭!」
「だってそうでしょ? 書店に並んでる本を見た? あんなおかしなヤツが集まってきたって不思議じゃない品揃えよ。そんな客層を集めるような人が何か考えを持って謝りに来れると思う?」
 鼻で笑うように吐き捨てると門戸の肩はピクリと反応した。
「すみません門戸さん。今はまだ気が立っていて失礼な事を言ってしまっているだけなんです」
「……か」
「え?」
 聞き取れなかった門戸の声に日比谷は反応した。
「そこまであんたは偉いのかって言ってんだよ! 何が売れっ子作家だ! 客を選ぶようなことをして、えばり腐るほど偉いのかよ!」
「何ですって!?」
「おかしな客が集まるだって? 自分の勘違いした振る舞いだとかでそういう客を作ってるかもしれないってのも解らずによく作家ができるもんだ」
「何よコイツ! ちょっと!」
「門戸さん、それは聞き捨てなりませんよ。うちの桜木に問題があるとでも言いたいのですか!?」
 日比谷の声を聞いて門戸は我に返った。
「い、いやそういうわけではありませんで」
「確かに桜木が失礼な事を言ってしまった事はお詫びさせていただきますが、それでも今の侮辱はないじゃないですか。このことはしっかりと報告させていただきます」
「あ、いや、待ってください!」
「行くよ、圭」
「ええ。類は友を呼ぶとはよく言ったものだわ。あんたみたいな男が店長ならそれらしい客だって集まるわね」
 鼻で笑いながら捨てゼリフを吐くと桜木と日比谷はその場を去っていった。
 いつもの最悪の癖が出てしまった。
 侮辱に耐え切れずすぐにカッとなってしまう。
 そして我に返った時にはいつも取り返しのつかない状況になってしまう。
 門戸は自分の癖を恨みながらその場にへたり込み頭を抱えた。

     6

 2008年 2月14日 15:45

「すまないな。こんなことになってしまって」
「何を気にしてるのよ。鬼山君のせいじゃないじゃない」
 気落ちした鬼山を慰めるように風祭は応えた。
「大体あの桜木圭って作家さんもおかしいじゃない。一人のファンがおかしな行動をとったってだけであなたに責任を押し付けるなんて」
「いや……今回の企画がまずかったんだろう」
「そうかしら? 他の書店でも同様の企画が上がってたんでしょ? だったら他の書店でだって同じ事が起きてたかもしれないわけじゃない」
「そうかも知れないけど……」
「こんなこと大きな声では言えないけどさ、鬼山君がここまで企画を引っ張ってこれたのって袖の下があったってことだったよね」
 風祭は鬼山が今回の企画を立案し声をかけてもらったときにそれまでの経緯を聞いていた。
 高校時代からの友人であることもあって、自分が売れない劇団員としてやっていることを鬼山は気にかけてくれていた。
 色んな仕事を掛け持ちながらの劇団員生活で劇団そのものを辞めようと考えている事を相談した時に色んな伝手を辿って司会業という道を拾い集めてくれたいわば恩人である。
 そんなことが何度もあってか今では色んなところからも仕事としてイベントの司会を任されることも多くなっていた。
 互いが悩んだ時は相談をしあう仲になり、今回のイベントの事でも相談に乗っていたのだ。
 その折に風祭は鬼山から企画を通すために袖の下、つまり賄賂を桜木に使ったことも伝えていた。
「袖の下まで通して、それを受け取った身でありながら偉そうに何様のつもりかしらと思うわ」
「でもそこまでして今回の失敗だ……。会社側にとっては賄賂分を抱えた損失が出てしまうかもしれないんだぞ」
「現実的な物の見方をすればそうだけど、それこそ下手なことをすれば自分だって窮地に陥る事を桜木は解ってるはずよ」
「窮地に陥る?」
「賄賂の事をバラされて困るのは誰かって話よ。売れっ子作家ともなればスキャンダルを恐れるわよ。今回みたいな偉そうな態度くらいなら『それも魅力だ』みたいな馬鹿な考えを持った人は見向きもしないだろうけど、賄賂となったら別なはずよ」
「う〜ん……」
「まぁできる限りの謝罪だけすれば大事にはできないわよ。もし大事にすればその事を公表したっていいじゃない」
「そんなことできるわけ……」
「もししなくても本人にチラつかせるだけでも効果はあるわよ」
「…………」
「これからどうすれば良いかは相談にも乗るわよ。だから深く考えすぎない事ね。あ、そうだ」
 ひとしきり話し終えて何か思い出したように風祭は立ち上がるとカバンから小さな包みを取り出した。
「ほら、バレンタインだしこれあげようと思ってたのよ」
 風祭が取り出したのは落ち着いた色調の包装紙にくるまれたチョコレートだった。
「これでも食べて疲れをとりなさいよ」
「チョコレート……か」
「安心しなさい、ドのつく義理チョコだから。奥さんに罪悪感も湧かないでしょ」
「いや、罪悪感というか何と言うか」
「じゃあ何?」
「チョコレート事件の後にチョコレートってのもな」
「あら、そうだったわね」
 二人は同時に噴き出していた。

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