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ミステリーは語られる 〜問題編1〜

     1

 娘の誕生日が近づくある日、冬馬甚五郎は家でくつろいでいた。
 刑事である甚五郎にとって、自宅でくつろぐ事が至福を感じる時でもあった。
 ただ一つの事を除いては……。
「お父さん、何か面白い事件はないの?」
 大学に通う娘の由紀が至福の時に介入してくる。
 刑事の娘であることを良いことに、甚五郎が抱えている事件に首を突っ込もうとするのが由紀の趣味であった。
「前々から言っているだろう。刑事が事件の話なんて軽くできるわけがない」
「あら。それでもいくつかの事件は私に話すことで解決してきたじゃない」
 得意げな表情で由紀は言うが、甚五郎は片手でそれを制した。
「お前が解決したわけじゃないだろう」
「私が解決したなんて一言も言ってないじゃない。でも力を貸してることは確かでしょ?」
 ギネス記録に載るのではないかというくらい吐き続けたため息を甚五郎は今日も更新した。
 事件を解決したのは確かに由紀ではない。
 由紀の恋人である周防健太郎という青年が力を貸してくれてはいたのだが、それもそれで問題があることだった。
 刑事の娘である由紀ならまだしも、その恋人といういわば事件に何ら関係のない人物の手によって事件が解決されたと知れては世間で何を言われるか分かったものではない。
 周防健太郎はミステリー研究会に所属する由紀と同じ大学に通う青年である。
 推理小説なんかも自分で書いたりするという事で、頭の回転が速いことは確かである。
 事件というのであれば彼が一番の被害者かも知れない。
 由紀が力を貸したと豪語しているが、乗り気でない青年を無理やり事件に引きずり込み解決させているのだから……。
「俺も彼もそれを望んでやってるわけじゃないんだがな……」
 心の声をかすかに漏らした。
「まぁ、お父さんが話してくれないのも解るわね。守秘義務があるってことだし、私も無理に教えてなんていわないわ」
「今日はやけに物分りがいいじゃないか」
「お父さんが私に誕生日プレゼントを用意してくれさえすれば、何も聞かない事だってあるものよ」
 下手な犯罪者よりタチの悪い性格である。
「刑事の父親を脅迫するのか?」
「脅迫なんて失礼ね。交換条件ってやつじゃない」
 周防とは違った意味で頭が回るのも厄介な話であった。
「お前に話すと余計なところに飛び火するだけじゃないか」
「私はプレゼントは大事にするわよ。他の人に見せびらかしたりするのは好きじゃないもの」
 要は誰にも言わないから話せといっているんだろう。
 これは言葉に出さないようにした。
「例えば、お父さんが初めて手がけた事件とか」
 完全に話を進めてしまっている。もう話すことになってしまうペースだった。
「まぁ、娘にだし、いかに刑事としてやってきたかを教えてやらんでもないが……」
「え!? 本当に話してくれるの!?」
「誕生日には何も用意してやれんからな」
「いいわよ〜。その日は健太……」
 しまった、という顔をして口に手を当てる由紀を見て甚五郎は頭をかいた。
「何も聞いてないことにしてやるが、そんな話は俺の前ではしないことだな」
「な〜に? 私は、な〜んにも言ってないわよ〜?」
 とぼけ方がコントに出てくるこそ泥のようだったが、咳払いひとつし甚五郎は話し始めた。
「お前に事件の真相がわかるかな?」

 第一日目

『守口祐馬』

 初めて訪れるため、迷いながらようやく到着した。
 ぬかるんだ土道を愛車は辛抱強く走ってくれていた。
 朝日がぬかるみを照らし出すと、道には轍ができており、それを辿っていくと山道を抜けてぽっかりと開けた場所に出た。
 そこに訪問する家はあった。
 レンガ造りの西洋風の建物は、ここを日本と思わせない雰囲気を漂わせていた。
 家の脇には2台の車が止まっていたので、私も習って愛車を止めた。
 豪華な意匠を凝らされた木製のドアに、ライオンを模したノッカーをコツコツと当てて到着を知らせた。
 何度か鳴らして待っていると、鍵の開く音と共に知った顔が現れた。
「おお、守口くんじゃないか。すまないね、こんな格好で出迎えてしまって」
 愛想よく向かえ出てくれたのは楢崎宗治というこの屋敷の主だった。
 楢崎はパジャマ姿で現れていた。
「いえ、こんな時間に到着してしまって。本当に申し訳ないです」
「気にしなさんな。はじめて来るわけだし、悪路の中だ。仕事終わりで向かってくれていて疲れただろう。さ、中に入って」
「それでは、失礼します」軽く一礼して私は中へ一歩踏み込んだ。
 玄関には見たこともないような芸術品が並んでいたが、ただ飾られているという事ではなかった。
 飾っている壷には花が生けてあったり、実用しているのである。
 そのくせ趣味の悪いトラの毛皮が玄関に敷いてあるということはない。
 成金ではなく収集家である事がそれだけでも伺えた。
 楢崎とは仕事の得意先で関係があったが、古美術に興味があることを一度話した時に「それならば是非」ということで呼ばれたのである。
「まだ私だけなんだがね。皆がきたら、今回手に入ったとっておきをお見せするよ」
 寝起きの顔をしわくちゃにしながら笑顔で楢崎は言った。
「それは楽しみですね。それにしても飾られているものだけでも中々のものですね」
「そう言ってもらえると嬉しいね。中には『なんでこんな風に使うんだ!』とか『芸術品は見るものじゃないのか?』なんて言う人がいる。そういう人は二度とここに来てもらってないような状態だがね。使用する芸術品を飾るだけなんてどうかと思うんだがね。芸術美と機能美をあわせている物は利用もしなけりゃいけないと思うんだよ。そこを理解してもらえなければ、招待しても甲斐がないというものだからね」
 私もその意見には賛成だった。
 絵のような芸術品は飾ることを目的とされているが、壷や食器などは使うために作られている。
 ならば使って当然というものだろう。
「食事の用意は私がすることになっていてね。申し訳ないが、ソファに座って待っていてくれないか?」
「はい。解りました」
 キッチンの奥へと姿を消していく楢崎を見ながら、まだ見ぬ芸術品に心を躍らせながら私は虚空を眺めていた。

『柘植久秀』

 恐らく私が一番乗りであろうと思った。
 急ぐ心をそのまま表すように車は砂埃を上げながら楢崎邸へ到着した。
 いつものように楢崎夫妻の車だけが屋敷脇に止まっている。
 横付けするように愛車を止めると玄関先に奥方の楢崎登美子の姿が目に入った。
「あら、柘植さん。いらっしゃい、早かったのね」
 半袖のブラウス姿で日差しを避けるために麦藁帽子をかぶるといった夏定番の格好で出迎えてくれた。
 夫の楢崎とは学生時代からの付き合いで、よくここへは招かれていた。
 出迎えてくれた奥方と結婚をしてもよく招待してくれている。
 楢崎登美子はよくできた奥方で、いつ遊びに来てもこちらが不自由しないだけの準備を整えて出迎えてくれるのだ。
「いや、登美子さん。そりゃまた新しい芸術品が手に入ったとあらばこの足が黙ってないんですよ」
「あの人が聞いたらまた喜んでしまうわね」
 クスクスと笑いながらドアを開けて中へと招いてくれた。
 中はいつもと変わらぬ様子で、心が躍ってしまうような芸術品が至る所に飾ってあった。
「相変わらず手入れが行き届いていますなぁ」
「一切触らせてくれないんですけどね。それでも私としては楽で気が助かるんですよ。掃除は全部主人がやってくれるんですもの」
 簡単な会話をしていると額に汗をにじませた楢崎宗治の姿がリビングに映った。
「あなた、柘植さんが来てくださったわよ」
 奥方が声をかけると小動物のように首をこちらに向けて、得意のしわくちゃの顔で楢崎はこちらにやってきた。
「いやいや。よく来たな」
「お前のほうこそ、よく呼んでくれた。いつも真っ先に呼んでくれるってのはありがたいものだよ」
 私が感謝の意を示すと、笑いながら肩をたたいてリビングへと通してくれる。
「何でも、またいい物が手に入ったとか聞いたが」
 私が早速本題に入ると「気の早いやつだな」とまた笑いながら肩をたたく。
「そりゃ、気になっているんだから仕方がない」
「そう慌てるな。今日はお前だけを招待してるわけじゃないんだから」
 楢崎は言いながら私にソファに座るように促したので、指示通りにソファへと腰掛けた。
 座ったとほぼ同時くらいに奥方がアイスティーを目の前のガラステーブルに置いてくれた。
 私の好みを熟知してくれているのが、ここへくると心地の良い所でもある。
「どうも、どうも」と簡単に礼を述べながらコップ半分ほど紅茶を飲んだ。
「じゃあ、他の方々が到着するまでは、お預けということか?」
 コップを置きつつ訊ねると「まぁ、そういうことだな」とニコニコしながら楢崎は答えた。
「お楽しみは後でって事だな」
 私は楢崎の言葉を受けて、まだ見ぬ芸術品に心を躍らせながら、旧友と話をして時を過ごすことにした。

『谷町友康』

 招待された住所をもとに、どうにかこうにか私は楢崎邸へと到着した。
 先に車が止められていたので、私も川の字を描くように止めさせてもらうことにした。
 山奥でも携帯の電波は届いているらしく、念のため楢崎氏の携帯へと電話をかけてみた。
 コール音が2度ほどで氏は電話に出てくれた。
 自分が到着したことを伝えると、すぐに表に出てきてくれるとの事で、その言葉どおり玄関口に楢崎宗治が出てきてくれた。
「谷町さん、よく来てくださった。道には迷いませんでしたかな?」
「途中で地元の人に道を聞きまして、何とか無事に到着できました」
「そうでしたか。いやいや、地図もあわせて用意しておけばよかったですな」
 面目なさそうに頭を下げてくる楢崎氏に「いやいや、お気になさらないで」と伝えると、人懐っこい笑顔をこちらに向けた。
「それにしても素晴らしい建物ですな」
 豪奢なレンガ造りを見上げながらいうと、楢崎は照れくさそうに頭をかいている。
「土地はよくないんですがな。道も整備されておりませんでしたでしょう?」
 どのように答えていいのか困る質問を投げかけてくる。
 実際のところ、途中から舗装された道でなくなったときには、本当に合っているのかどうかも怪しかったくらいだ。
「自然が程よく残っていて良い環境じゃないですか?」
「そうですか。そう言って頂けるとありがたいですな」
 当たり障りのない回答であったが、それなりに満足してくれたようで内心ホッとした。
 まったくの嘘というわけではなかった。
 深く茂った森に囲まれて、夏の日差しが西洋屋敷にスポットライトのように当たっている。
 それだけで十分な芸術と呼べそうだったからだ。
 遠くに見える雨雲に目をやりながら楢崎氏が口を開いた。
「こんな暑い所で立ち話もなんですしな、中に入って……」
 楢崎氏が話す途中で携帯電話がなった。
 私のものではなく、楢崎氏のものだった。
「少し失礼します」
 こちらに気を遣った様子を見せて楢崎氏は電話に出た。
「……そうですか。いや、はい。了解しました」
 ものの1,2分で電話を終えていた。
 それでも10分ほどに感じたのは、熱せられた地面からの暑さのせいだろう。
「お待たせして申し訳ありませんな」
 携帯をポケットにしまいながら屋敷の中へ促してくれる。
 特段クーラーなどはついていないのだろうが、日差しがないだけで汗の出が落ち着いた。
「おお、招待客のご到着か?」
 玄関から正面のリビングらしきところから、ポロシャツの中年男性が出てきた。
 年齢からして、楢崎氏と同じくらいだろう事はうかがい知れた。
「私は柘植久秀だ。楢崎とは学生の頃からの付き合いでね。どうぞよろしく」
 楢崎氏に負けず劣らず人懐っこい笑顔で右手を前に差し出してくる。
「谷町友康です。今回の作品を譲らせていただいて、招待を受けました」
 差し出された手を握り返し、握手をすると「そうですか」と笑顔で応えてくれる。
「またどうして手放されようと思ったんですか?」
 柘植は何の気ない顔をして質問をした。
 私だってできれば手放したくなかったが、事情というものがある。
「まぁ、色々とありまして」
 語りたくないことまで話す必要はないと思い曖昧に応えておくことにした。
「色々ですか、それって……」
「悪い癖が出すぎだぞ柘植」
 ずけずけと踏み込んでくる柘植を楢崎氏は制してくれた。
 私は自分の生活環境を話すために来たのではない。
 最後に人目だけでも手放した作品を見ておきたかったからやって来たのだ。
「谷町さん、気を悪くせんでくださいね」
 実際のところ気分が悪くはなっている。
 そんな感情を奥にしまいこんで笑顔で応えて見せた。
「それでは気を取り直して作品でも見に行きますかな?」
 楢崎氏は明るく振舞いながらその場を取り繕ってくれた。
「お、早速作品が見れるわけだな!」
 作品の言葉に飛びつくように柘植は反応した。
 相当楽しみにしているようだ。
 案内のために楢崎氏が先導するところに女性が姿を現した。
 落ちついた感じの女性で、手には旅行用のバッグを持っていた。
「ウチの家内の登美子です」
 楢崎氏が紹介すると登美子婦人は笑顔で会釈をした。
「これから何処かへ行かれるんですか?」
「ええ。友人と温泉へ行きますので」
「気をつけて行って来るんだぞ」
「ありがとう。気をつけて行ってきます」
 おしどり夫婦なのだろうな感じる会話だった。
 簡単にだけ私も挨拶をすると「ごゆっくりしていって下さいね」と優しく返してくれる。
 登美子婦人を見送ると楢崎氏は案内を再開した。

『楢崎宗治』

 私は皆を邸宅内奥にある一室へ案内した。
「これが今回のレブンナントの幻の作品だ」
 中へ促して額入りで飾っている絵をさして見せた。
 金で枠どられた額の中には一点に光源を当てた描写で荘厳な雰囲気を漂わせた絵が入っている。
「これが幻の……」
 柘植は絵画に近づき見惚れるようにして言葉を漏らしている。
「晩年に描きあげたものだといわれています。彼の作品には弟子たちが作り上げた模写を本物と取り違えて評論されていることも多いのですが、この作品はまぎれもない本物なんです」
 とこれは谷町。
「どうして本物だとわかるんですか?」
「弟子たちの作品は工房で作られていたのですが、模写の作品とレブンナント本人の作品では利用していた絵筆に違いがあったようなんです」
「絵筆ですか?」
「はい。工房の弟子たちは絵だけで食べられる者は多くありませんでした。そうなると用意できた絵筆も下町で購入したものが主だったわけです。ところがレブンナント本人は様々なところから依頼を受けて絵を描いていました。依頼主は高貴な身分のものが多く、すべての画材を用意しての依頼が多かったので、絵筆も弟子たちのものとは全く別物だったんです」
「つまり絵のタッチに微妙な差が出ているということですね?」
「そうです。レブンナントは依頼を受けた時に使用していた絵筆をずっと愛用していたので、晩年であっても弟子たちとは違ったタッチのものが描けたわけです。その差を最近では研究されていて、模写かそうでないかを判断しているんです」
「なるほどね。だからこそこの絵は本物であると」
 柘植の言葉に谷町は無言のまま頷き絵を見つめている。
 視線をはずさないまま谷町は再び口を開いた。
「額に入っていると細かな部分までは説明ができないのですが、彼の作品は一点に光源が宿った絵を描くのが特徴的です。光源を際立たせるためには影の部分にも微細を払って描かなければならないのですが、特に影の部分にタッチの差が出ているんです」
 影が描かれた部分を指差しながら説明をしている。
「どうしても額に入っているとガラスで反射して見えにくいんです」
「そうなんですか。楢崎、よかったら直に見せてくれないか?」
 徹底的に分析したがる柘植の癖が出ていた。
 私はやれやれといった表情を浮かべながら額縁に手をかけた。
「結構作業が面倒なんだがな」
 私はグチをこぼしながら、大人が腕を広げるほどのサイズの額を床に慎重に下ろした。
 額をおろしてから私は一息ついた。
「手伝ってくれ」とは言わなかったが、一人でおろすのもひと苦労な重さなのだ。
「ん? 何だ、変わった開け方をするんだな」
 額縁から絵を取り出そうとしているのを見ながら柘植は聞いてきた。
「ああ。裏蓋を外すのではなくてね。これは角の、ほらここの隠しを押し込んで額ごと外すようになっているんだ」
 解りやすいように手順を踏まえて教えてやった。
 普通の額縁であれば裏の留め金をずらして絵をはめ込むが、この額縁は少し特殊であった。
 装飾に見える留め具を引き下げてやると額の表面が分離する仕組みになっている。
 分離を外して絵画を取り出してやると、谷町は再び説明を始めた。
 その説明を受けながら私も時おり「ほうほう」と頷いてみせる。
 一度譲り受ける際に本人に聞いているだけに相槌を打つ程度にはなってしまうが、それでも丁寧に谷町は説明していた。
 説明を終えたようなので再び額に絵を納めると、谷町は壁にかけるのは手伝ってくれるようだった。
 壁にかけると皆少し離れた位置からしばらく絵画を眺めていた。
「それにしてもここは本当に素晴らしい場所ですね」
 呟くように谷町は言葉を漏らした。
「そこらの美術館なんかに引けをとらない作品がそろっているし、この部屋の雰囲気も美術館より落ち着いて作品が見られる環境ですね」
「そうでしょう? 私もね、楢崎がそこまでの気配りをして様々な作品を飾っているからまた来たくなるんですよ。成金が下品に芸術品を珍重しているのとは違うでしょう。価値がわかってないやつのところへ見に行っても、やれ『触るな』だ『近づくな』なんて言う。それがここでは自由に見ることができるし、本人も作品に触ることも近づくことにも目くじらを立てない。本当の意味で作品をじっくり見ることができるのは、楢崎のところ以外で知らないくらいです」
 馬鹿丁寧に柘植が褒めるものだから私は少し照れくさくなってしまった。
「レブンナントのこの作品も特別扱いをしているわけではないですしね。この部屋に飾られているほかの作品と同じように扱われている。この作品を楢崎さんに託して正解でした」
 そんな話がなされている所に一つだけ設けられた天窓が一瞬だけストロボのように点滅した。
 直後に重低音の雷鳴がとどろき、騒がしく雨が天窓を叩いていた。
 見上げてみると、天窓の向こうは夜とも思えるほど暗い中に雨が踊っている。
「これはレブンナントの演出かな?」
 私は思わず呟いていた。
「どういうことだ?」
 聞き逃すことなく柘植が質問を投げかけてくる。
「外から見ればおそらくレブンナントだって事だよ」
 私の言葉にさらに困惑した表情で柘植が首をかしげている。
「暗い外で、この部屋から漏れる光がレブンナントの作品と同じって事でしょうね」
 谷町が補足するように微笑むのを見て私は黙って頷いた。

     *

「それで?」
 由紀はつまらなそうに話を聞いている。
 そんなに語り口がまずかっただろうか?
「まだ事件はおきないの?」
 待ちくたびれている様子で頬杖をついているだけだった。
 自分の娘ながら事件を待ち焦がれていることに少し悲しさを覚えてしまう。
「少しくらいは待てないのか?」
「こんなに焦らされる誕生日プレゼントなんてないわよ」
 不服の表情でぶつぶつと呟いている。
 自分から聞かせろと言ってきたくせに態度が悪い。
「そんなに不平を募らせてるんなら、ここまででも良いんだぞ?」
「バカなこと言わないでよ。プレゼントの包装紙だけ外して中身をもらえないんじゃ意味がないじゃない!」
 妙な屁理屈ばかりは次々と口にする。
 少しくらいは期待の言葉や感謝の言葉は出せないものだろうか。
 本日何度目か解らないため息をついて、話を再開してやることにした。



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