不完全犯罪 〜問題編2〜

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「真鍋さん。どういうつもりなんですか!?」
「怒んなよ」
 反省の色を見せることなく真鍋はタバコに火を付けている。
「それよりお前はどう思うよ、え? この現場見てさ」
「……何がですか?」
「お前も鈍いねぇ。これだけ現場荒されてるんだよ? 物盗りとか、何か思わないの?」
「物取り以外考えられないんじゃないんですか? 現場からは財布とか見つからなかったわけですし」
 私の解答に不服なのか苦そうに煙を吐き出し真鍋は頭を掻いた。
 おもむろにしゃがみ込み、灰皿手にとって私の方を見上げた。
「凶器コレ。何か思わねぇ?」
「何かって……大理石ですけど」
 灰皿を床に置き直し勢いよく立ち上がると真鍋は私の頭を思いっきり叩いた。
「痛ッ!」
「素材聞いてんじゃねぇよ! 凶器が灰皿な事に何か違和感を感じねぇかって聞いてんだよ!」
「違和感……ですか? えっと……この灰皿は……あ! ここのですね!」
 真鍋は指さしながら頷いている。
 もしも物盗りの犯行ならば現場にある物を使って人を殺害などしないだろう。
「物盗りに見せかけた殺人だよ、こりゃ。犯人は物盗りに見せなきゃいけないような人物って事だ」
「じゃあ被害者の葉山と顔見知りの犯行って事ですか」
「そういう事。それにな、この原稿。サインが『神谷みずえ』になってるよな? これどうだよ」
 ガラステーブルに置かれた先ほどの原稿用紙を指さして真鍋は言った。
「葉山は……盗作をしてたって事ですよね」
「今日は編集員の塚本と張本人の神谷が来る予定になっていた。それなのに葉山はどうしてこの原稿をデスクに置いてたんだろうな」
 言われてみればそうだ。
 自分が盗作をしていることを他の人間に知られるのはマズイはずだ。
 しかも自分から二人を呼び出しているのである。
 ここに二人が来ることは明白なのに自分が不利になるような物を見えるように置いておくだろうか?
「葉山が死んだのは、あの二人の証言と携帯から見ると21時20分から22時半までの約1時間のどこか……って事ですよね?」
「どうだろうね」
「え?」
「あの二人も容疑者だ。嘘の可能性もあるだろう」
「共犯って事ですか!?」
「よし。行くぞ」
「え!? どこへですか!?」
「聞き込みだろうが。ほら、ボサっとしてんなよ」
「あ、ちょっと!」
 簡単な説明だけして真鍋はすぐに部屋を出ていく。
 置いて行かれないように私も走って後を追いかけた。

       *

 二人が食事をしていたというイタリアンレストラン。
 それぞれがイタリアンレストランに来るまでどこにいたのか。
 真鍋と一緒に調べて回り、解ったこと。
 イタリアンレストランに来るまで塚本は職場の人間と一緒にいたことが判明。
 塚本のアリバイは証明された。
 一方、神谷みずえはイタリアンレストランに来るまでのアリバイはないが、レストランでの二人のアリバイは店員の証言で確認が取れている。
 塚本から聞いていたタクシー会社に連絡を取り、二人を駅から葉山の自宅まで送ったことも証明が取れた。
 つまり、葉山からの電話以降には二人にアリバイがあるという事だ。
 そこまでの確認をとり、私たちは再び塚本から事情を聞くことにした。
「今、何時だと思ってるんですか……」
 眠そうに頭を掻きながら塚本は自宅のドアを開いて私たちを迎え入れてくれた。
「すみません、お時間取らせませんので」
「……どうぞ」
 1DKのマンションの部屋は一人暮らしの男性らしく散らかっていた。
 ざっと私たちが座る場所を整理してくれると再び「どうぞ」と言った。
「それで、聞きたい事ってなんですか?」
「レストランで神谷さんに会ったと言うことですが、彼女が電話に出られたときの事をお伺いしたいんですが」
「ああ、先生から電話があったときのことですか。先生からはいつ電話があるのか解らなかったんですけど、彼女の携帯に電話が入りまして。それですぐに来てくれということでした」
「特に変わったことはなかったですか?」
「変わったことと言われても……私が出た訳じゃないですしね。あ、そういえば」
「何ですか?」
 思い出したかのように塚本は中空を見た。
「先生から電話がある前に、彼女、神谷さんに彼氏からの電話が入ってましたね。その電話の直後に先生からすぐに電話があったんですよ」
「彼氏から?」
「またまたぁ。そんな電話、本当にあったんですか?」
 またおかしなタイミングで真鍋は塚本に問いかける。
 ……当然、気をよくするでもなく、
「どうして嘘つかなきゃいけないんですか! 嘘だと思うなら本人から聞けばいいし、ここにも証言を聞きに来るなよ! あんた、俺の証言を聞く気ないんだろう!?」
「いやね、彼女……神谷さん? の携帯の着信履歴を見せられたときにねぇ、なかったんですよ。そんな着信」
「え?」
 と、これは私の発言。
 あんな短時間でよくそこまで見て覚えているものである。
「お前が『え?』とか言うなよ。彼女の携帯の履歴は、葉山から電話があったとされる着信以前は19時頃の着信まで飛んでたんですよ。だからね、そんな電話が本当にあったのかなぁ? って思ったわけですよ。あ、タバコいいですかね?」
 ひとしきり言い終えると真鍋は塚本の許可がおりる前にタバコに火を付けていた。
「で、でも本当ですよ? 彼女の携帯には先生からの電話と、その前には彼氏からの電話がありましたから」
「そうですか。で、現場に行った後は何も触ってないんですよね? あなたも、神谷さんも」
「言ったように、何も触ってませんよ!」
 煙を吐きながらうんうん頷くと真鍋は突然立ち上がった。
「ありがとうございました。おい、行くぞ」
「え? 行くってどこへ!?」
「いいから、来い」
 真鍋は軽く頭を下げて玄関まで行く。
「あ、すみません。ちょっと待って下さいよ!」
 私も慌てて塚本に頭を下げて後を追った。
 塚本は豆鉄砲を喰らったような顔のまま口を開いているだけだった。

     5

 どこへ行くのか解らないまま私と真鍋はタクシーである場所へ着いた。
 深夜の3時を回ろうかとしている所で運転手に5000円を払い、お釣りと領収書をもらっていると真鍋は私を置いてフラフラと歩き出す。
「どこへ行くんですか!?」
 街灯に飛んでいく虫のように真鍋は明かりがついているところに向かっているようだった。
「うるせぇな……コンビニだよ、コンビニ」
 5000円も払ってコンビニに来るはずもない。
 私はイライラしながらもう一度分かりやすく質問をした。
「そうじゃなくて、本来の目的は何で、どこに用があるのかを聞いてるんです!」
 頭を掻きながらめんど臭そうに真鍋はある方向を指さした。
 それはキンと冷えた夜の空気を割くように建っているマンションだった。
「神谷の所だよ。ここのマンションの305号室だ。聴取だよ、聴取」
「それなら先に言ってくれればいいじゃないですか」
「塚本の所に行った後なんだから解れよ」
 洟を吸いながら真鍋はタバコに火を付けた。
「こんな遅い時間に行っても大丈夫なんでしょうか?」
「後で行くって伝えてるだろう。大丈夫だよ。その前にコンビニ」
「コンビニなんて後で行けばいいじゃないですか」
「お前も疲れてるだろう? 飲み物買ってきてやるから、待ってろ、な?」
 私の質問に対する解答ではなかったが、それでも返ってきた言葉には驚いた。
 無神経で何も考えていないようで、その実、気は遣ってくれているのだから。
 事件の関係者に気を遣ってはいないけれども……。
 それだけ言うと真鍋はコンビニの中へさっさと入ってしまった。
 本当は照れてるんじゃないか? と思えてしまう。
 入ったかと思うとすぐさま買い物を終えて真鍋は出てきた。
「ほら、寒いだろう。コレでも飲め」
 真鍋は袋をあさって私に缶を手渡した。
  『おしるこ』
 ……コーヒーじゃないの?
「女は甘い物が好きっていうからねぇ。何だよ、もっと喜べよ」
 喜んでいないわけではないのだけれども、それでも期待はずれの感は否めなかった。
「いえ……ありがとうございます。真鍋さんは何を買ったんですか?」
「あ?」
 質問に答えるともなく袋から缶を取り出しパコっと軽快な音を立ててプルタブを引いていた。
「こ、コーンポタージュですか?」
「何だ、こっちがいいのか?」
 正直どっちもどっちだ。
 私は遠慮気味に手を振ってありがた〜い『おしるこ』を飲むことに決めた。
「お前はさ、誰が犯人だと思う?」
 ふざけた行動をとっているようで時折真面目に真鍋は質問をしてくる。
 口に残っているおしるこを急いで飲み込んで私は答えた。
「塚本と神谷の共犯だと私は思ってます」
 真鍋は口に付けようとしたコーンポタージュの缶を離して俯きながら笑った。
「それはないな」
「どうしてですか? あり得ない話じゃないでしょう?」
「あり得ないね」
 吐き捨てるように言うと缶を煽って底をポンポンと叩いている。
「じゃあ真鍋さんは誰だと思ってるんですか!?」
 目尻にシワを寄せてこちらを見ると真鍋はまた何も言わずに歩き出した。

      6

 子供のイタズラのように真鍋はインターホンを何度も連打した。
 夜の静まりかえった空気に小さくピンポンという音が響いている。
 その音と共に中からバタバタと音が聞こえてくる。
「誰ですか!」
 スウェットに身を包んだ美人がドアを勢いよく開けた。
「どうも、警視庁捜査一課の真鍋です」
『夜部恐れいります』くらい言えないのだろうか、この人は……。
「……何のようですか」
 明らかに不機嫌な声で言ってきた。
 当然だろう、恐らく真鍋本人もこんな事をされると……もっと暴れそうだ。
「いやぁ、話を伺いたいと思いまして。よろしいでしょうか?」
「今、何時だと思ってるんですか?」
 よろしい訳ないという表情で正当な事を神谷は言った。
「夜中の3時半ってところですね。それでお伺いしたいことなんですが」
「こんな夜中に話すことはありません。お引き取りを」
 ドアを閉めようとする神谷の行動をさえぎるように黒革の靴でドアを止めた。
 セカンドバックとサングラスがあれば完全に借金取りだ。
「生憎、こちらには話があるんですよ。何せ、容疑者第一候補ですからねぇ」
 嫌み満点の笑顔で真鍋が言うと、神谷は眉間にシワを寄せてドアから手を離した。
「どうして私が容疑者になるんですか?」
 腕を組みながら玄関口で仁王立ちになっている。
 やり取りがうるさかったのか隣人がドアを薄く開けて眠そうな目でこちらを睨んできている。
「……ここじゃ何ですので、どうぞ」
「失礼します」
 散々失礼を働いてここでその言葉を出すのはどうかと思ったが、私もそれに習い部屋の中へと足を踏み入れた。
 塚本と違って女性の部屋らしく小ぎれいに片づいた部屋だった。
 真鍋は部屋の中を見回しながらズカズカと部屋の中へ入っていく。
 さすがに革靴は脱いでいるが。
「へぇ、学生時代はテニスをやってたんですか」
 棚に飾ってある写真立てを勝手に掴みながら真鍋は漏らした。
 私も脇から写真を見ると、今とは真逆の満面の笑みでトロフィーを抱えている神谷の姿がそこにはあった。
「……高校の頃です」
「何かの大会で優勝されたんですか?」
 私はふと思った疑問を投げかけると、私にはそれなりの愛想を振る舞うように答えてくれた。
「県大会ですけどね。全国大会では負けちゃったけど」
「それでも凄いじゃないですか! 相当練習しないと全国大会なんて出られないでしょう?」
 私の言葉に気を許してくれたのか少し笑いながら「負けず嫌いが功を奏しただけです」と照れくさそうに答えた。
「気が、強そうですからねぇ」
 私のフォローなど一切吹き飛ぶ余計な一言を真鍋は漏らした。
 深夜に相応しいくらいに陰った表情を神谷は顔に貼り付けていた。
「……それで用って何なんですか? 早く話してお引き取り願いたいんだけど」
「いられちゃマズイ事でもあるんですか?」
「あなたにいられると、すり減らす神経がいくつあっても足りないからマズイんですけど!」
 再び腕を組んで皮肉たっぷりに神谷は言った。
 ごもっともだと頷いてみせると真鍋は頭を掻く振りをして私の頭を叩いた。
「いやねぇ、新証言? がありましてね。それについて聞きたいんですよ」
「……何ですか、その『新証言』っていうのは」
「先ほど塚本さんの所に話を聞きに行きましてねぇ。イタリアンレストランであなたが恋人と電話をしてたって事だったんですが」
 神谷は腕をほどくことなく小さく鼻で笑った。
「恋人と話をして何か悪いですか?」
「悪いですねぇ。携帯の履歴から消してたことを言わないなんて」
 真鍋の一言に神谷は一瞬顔色を変えたが今度は腕をほどいて真鍋にまっすぐ向き直った。
「別に履歴を消したことまで言う必要なんてないんじゃないかしら?」
「どうして?」
「今、彼とは喧嘩中なの。履歴が残っているのが鬱陶しかったから消しただけ、何か文句でもある?」
「彼の名前は?」
「それが事件と何か関係があるの!?」
 ヒステリックと嫌みが交互に会話をしている感じだった。
 私も真鍋がなぜそんなことを気にするのか解らなかった。
「あるかも知れないですね。で、名前は?」
 確実に真鍋に聞こえるようにため息を一つついて、神谷は背中を向けた。
「正樹よ。井上正樹」
「携帯の履歴には確かその、まさ、正樹? の名前が残ってましたよね?」
 牽制球を投げるピッチャーのようにクルッと回ると神谷は驚いた表情をしている。
「携帯を見せてもらえますか?」
 してやったりという表情で真鍋は片手を神谷に出した。
 神谷は無言で寝室に入っていくと戻ってくると同時に真鍋の手に携帯を握らせた。
「ほらぁ、あるんじゃないですか」
  『着信 19:00 井上正樹』
 確かに着信履歴の部分に井上正樹の名前が表示されていた。
「……よく覚えてるものね。でも名前が残っているのが何だって言うの? 事件より前にかかってきただけの話じゃない」
「鬱陶しかったのに消さなかったんですね。本当に、鬱陶しかったんですかね?」
「いちいち、ずっと前の履歴まで消すこともないと思っただけ!」
「その時たまたま鬱陶しかったと?」
「そうよ!」
「喧嘩をしてなかったら消さなかった?」
「消す訳ないでしょう! 仲が悪くもないのにどうして消さなきゃいけないのよ!」
 口をすぼめて真鍋は小刻みに頷いていた。
「そうですか。以上です、おい、帰るぞ」
「ちょっと待ちなさいよ!」
 玄関に向かって歩き出そうとしている真鍋に向かって神谷は大声で怒鳴りつけた。
「私を疑ってるようだけど、これだけの失礼な事をしてただで済むと思ってないでしょうね?」
「ほう、それは脅しかい?」
 真鍋は振り返って目元だけ笑った状態で言い返している。
「人を犯人呼ばわりして。挙げ句にこんな失礼な事をして、マスコミにこの事を全部話すわ」
「いいですよ。今、俺が確認したこと全てをマスコミに合わせて伝えてくださいよ。一言一句漏らさずにね」
 神谷の顔はこわばったままだったが、震える声で「早く出ていって」と吐き捨てた。
「ご協力ありがとうございました……と、そうそう」
 出ていく振りをして再び真鍋は振り返った。
「俺はね。犯人は必ず捕まえて、その償いをさせるのがモットーですから。それじゃ」
「……そう。いいわよ。捕まえられるものなら捕まえてみなさいよ。私は何があっても絶対に負けない自信があるんだから」
 この時、私は二人が共鳴したかのように見えた。
 お互いが全く同じ挑戦者の表情で睨み合っていたのだから。

      7
 真鍋は翌日……といっても夜が明けて私が出勤してからだが、姿が全く見えなかった。
「あの、真鍋さんは出勤されてないんですか?」
 私は刑事課長の築後政則に質問した。
「今朝早く電話があってね。容疑者の実家に乗り込むとか息巻いてたよ」
 朝早くというのに大きな声で笑いながら築後課長は答えてくれた。
 ところがすぐに笑い声を消して凄みのある表情で口調を変えた。
「勝手な行動ばかりしおって……。君を付けていればまだ大人しくしていると思ったが……」
 築後課長の言葉に私は引っ掛かった。
 私を付けていれば?
「……課長。もしかして、補佐なんて言って私を監視役に付けたんじゃ……」
「そんな事はどうでもいい。早く真鍋に付いて捜査に行かないか」
 何だかお茶を濁された様な感じがして嫌な気分になった。
「……はい。それでは行ってきます」
 朝一番から出勤して空気が重いままいるつもりもなかったのでそれだけ告げて、私は一礼をした。
        *
 タクシーに行き先を告げて私は真鍋のいるであろう神谷の実家に向かった。
 到着して『神谷』と書かれた表札を確認し、インターホンを押した。
 しばらくして引き戸が開き、品の良さそうな50代くらいの女性が姿を現した。
「どちら様ですか?」
「私、警視庁捜査一課の柴谷と申します。こちらに真鍋という刑事は伺っていないでしょうか?」
 簡単な自己紹介の後に私が用件を伝えると、女性は息を飲むようにして小さく頷いた。
「……先ほどまでこちらにおられました」
「先ほどまで? 今はいないという事ですか?」
「はぁ……昨日電話で娘と話したかどうか聞きに来られたんですが……」
「それだけ伺って帰ったんでしょうか?」
「ええ。夜に電話をかけたことをお伝えすると『ありがとうございました』とだけ言って帰られましたが……」
 真鍋は一体何を確認に来たのだろうか?
 私には全く何も言わないので何をしているのか解らない。
「あの……娘が何かしたんでしょうか? 何かに巻き込まれてるんでしょうか?」
 不安そうな表情で神谷の母は小さく震えている。
「いえ、そんな事はないですよ」
 私は目一杯、元気づけるように答えた。
「そうですか……。先ほどの刑事さんも同じように仰ってくださったから、大丈夫なんでしょうね……」
 あの真鍋が?
「真鍋は……何か失礼なことをしませんでしたか?」
 思わず降って湧いた疑問を聞いてしまった。
「いえ! 失礼どころかお菓子まで頂いて。とても丁寧で親切な方でしたよ」
 真鍋にフィルターを何重もかけていたとしても、生まれてくるはずもないような言葉が二つも出てきた。
「私が不安になっているところで『娘さんは私たちに任せてください。大丈夫ですから』と優しく声をかけていただいて。それは紳士的な方でしたよ?」
 除夜の鐘と打ち棒の間に挟まれて何度も頭を突かれている気分になった。
 昨日見ていた光景は夢だったのだろうか?
「あの刑事さんによろしくお伝え下さい」
「……は、はぁ。承りました。それでは失礼します」
 意識が朦朧としたまま挨拶だけして私は待ってもらっていたタクシーに乗り込んだ。
「行き先は?」
 宇宙まで、と答えたい気分だったが突然鳴り出した携帯に反応し、液晶に目を移した。
  『真鍋 篤』
 着信にまた意識が遠のきそうになったが、出なければという意識が勝って通話ボタンを押した。
『おい、お前どこにいるんだよ。さっさと来い』
 夢を見ていたのは神谷の母であったことがハッキリとした。
「来いって、どこへですか」
『鈍いねぇ。神谷のマンションだよ。逮捕だ逮捕』
 最後の言葉に私は背筋が伸びきった。
「た、逮捕ですか?」
『ああ。お前、手錠とタクシー。用意して来いよ。じゃあな』
「え!? あのちょっと、真鍋さん!?」
 私の返答を聞く間もなく真鍋は電話を一方的に切った。
「お客さん、どこ行くの?」
 イラッとした表情で首だけ後ろにのけぞらせ運転手がこちらを見てくる。
「あ、それじゃ……」
 私が行き先を告げると「あいよ」とだけ言い、タクシーはゆっくり加速を始めていた。


 かまいたちの挑戦状

 真鍋が鑑識から受け取った結果。

  ・凶器の灰皿からは指紋がふき取られたような跡と真鍋の指紋が検出された。
  ・原稿用紙からは神谷みずえの指紋と真鍋の指紋が検出された。

 犯人は『神谷みずえ』ただ一人です。
 真鍋は神谷を逮捕するつもりでいます。
 今回は神谷みずえが使ったアリバイトリックをお答えいただきます。
 投稿の際は、
  ・アリバイトリックの推理
  ・HNの公開可、非公開のどちらか
 投稿は締め切りました。
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不完全犯罪〜解決編〜
かまいたちの迷宮へ