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監獄島のわらべ唄 〜解決編1〜

     1

 みんな解答を待っている様子だった。
 しかし犯人よりも先に犯人を特定するに至った過程を話した方がいいと思いそちらから話すことにした。
「犯人を云う前に少しこの事件を振り返ってみたいと思います。いいですか?」
 かなり焦らしているように思ったがみんなはそれでも黙って聞くことに徹するようだった。
「まず第一の事件。正岡さんの事件について振り返りたいと思います。この事件は食堂に集まったメンバー中から可奈子ちゃんと正岡さんが抜け出した後に起こったことでした」
「そうだな。確かあの時間から21時頃までだったかな、可奈子ちゃん以外にはアリバイがなかったと思う」
 美樹本さんの言葉に全員が可奈子ちゃんに注目する。
「そうです。21時頃の時計の音が鳴った後、可奈子ちゃんの悲鳴が聞こえてきました。それを聞いて僕たちは二階へと行こうとするところで可奈子ちゃんと出くわしました。ここまでの情報で考えると可奈子ちゃん以外の人にはアリバイがあるため、犯人は可奈子ちゃん以外の人物とは考えにくい」
 可奈子ちゃんが何か云おうとするのを止めるように僕は続けた。
「しかしココで可奈子ちゃんが犯人ではないという事が証明できるように思うんです」
「何やて? でも、さっきまではそんなこと一言も……」
「ええ、頭が回りきっていなかったんだと思います。そんなに難しく考えなくても可奈子ちゃんが犯人じゃないと証明できる材料があったんです」
「材料? 何だいその、材料っていうのは」
 小林さんが云うとみんなもそのことが気になるのか僕の顔をじっと見てきた。
「ココでというのは少し語弊があるかも知れません。実はその後に行った実験のことと照らし合わせると彼女が犯人ではないと考えられるんです」
「実験……。あ、ハシゴの実験のこと?」
 真理の言葉に頷きを返すと今度は俊夫さんが質問をしてきた。
「あの実験と彼女が犯人じゃないことの証明? 一体どうやって……」
「では思い出して下さい。あの実験では美樹本さんがハシゴを使って下に降りるということをしましたが、あのときどのような結果が導き出されましたか?」
 美樹本さんに問いかけると少し斜め上を見つめながら思い出すように云った。
「館から出ることは出来たが、誰かを担ぎながら降りることは不可能だと思ったよ」
「そう、誰かを担ぎながら降りることは不可能だった。という事は可奈子ちゃんにもこういった行動は不可能だったと考えられます」
 誰もここには質問を挟むことはしなかった。みんなが聞いているうちに先を続けることにした。
「可奈子ちゃんの騒ぎを聞き、二階に上がると正岡さんの死体はない。その後、可奈子ちゃんはどこにいましたか?」
「食堂よ。みんなが館の中を探索してるときもずっと食堂にいたわ」
 真理の回答に他の女性と香山さんも頷く。
「そうするとどうでしょう。もし可奈子ちゃんが正岡さんと食堂を出た直後に正岡さんを殺害したとして、彼女は一体どこへ死体を隠したんでしょうか? 外にはさっきの実験結果の証明で運ぶことは不可能。では館内にあったと考えた場合は? これもあり得ない。何せ僕たちが詮索した結果、死体は館のどこにも隠されてはいなかったからです」
 そこまで云うとみんなも可奈子ちゃんが犯人だという説があり得ないことに気付いたようである。
「つまりこう云うこと? 殺害することは出来たとしてもその後の死体処理を彼女は行えなかったと……」
「そういうことだ。これで彼女は犯人ではあり得ないことが解る」
「でもそうなると、誰も正岡さんを殺すことも運ぶこともできないんじゃないか?」
「まぁ、焦らずに。次に行くとしましょう。犯人は何らかの方法で正岡さんの死体を隠し次の行動に移った。夏美さん殺害です。彼女をうまく呼び出し殺害した。これには誰もアリバイがなかったため犯行は誰でも行うことが可能だったと考えられます」
 外は少し吹雪いてきたのか風の鳴る音が強くなり外が先程より薄暗く感じた。
 外の様子よりもみんな先を知りたいらしく、こちらを注目していたため話を再開することにした。
「そして1時頃に例の出来事が起こりました」
「正岡さんの死体発見ね」
「そう。今度は正岡さんの死体が部屋の中に出現しました。このときの状況は皆さん覚えてますよね?」
 思い出したくないことであったのだろう、皆一様に頷くが険しい顔をしていた。
「首が切断された死体だろう。そして首から上はなかった」
 村上さんがその状況を苦々しく説明した。
「ここで一つの疑問が生じます。可奈子ちゃんの報告では正岡さんの死体は喉から血を流していただけと云っています。しかし出現した死体には首から上はなかった。何故首から上が無くなったのか?」
「私も気にはなっていたんだが、それほど重要なことなのかね?」
「もちろんです。これこそが犯人を証明する材料となるものでした」
 このことには全員が驚きを隠せないでいた。
 真理はそれを聞き、考え込んだ様子になっていた。そして何か閃いたのか掌をぽんと打ち口を開いた。
「死体は入れ替わっていた?」
 先程驚いていたメンバーは更に驚愕の表情をする。中には何を云っているのか理解できていない人もいた。
「そう、出現した死体は正岡さんのものではなかった。誰か別の人間のものだったんです」
「よくミステリーなんかである死体入れ替えトリックね」
「ちょっと待ってくれ。どう云うことなのかわかりやすく説明してくれないか?」
 小林さんは訳が分からないといった感じで説明を求めてきた。
 小林さん以外にもまだ少し解っていなかった人がいたため説明を開始した。
「先程も云いましたが、1時頃に出現した死体は正岡さんのものではなかった。誰か別の人間が殺されて正岡さんに見立てられて殺されていたんです」
「首がなかったのは正岡さんではない者とバレないためにそうしたって云うことか」
 俊夫さんの言葉に頷くと他の人も理解できたのか納得の様子で頷いていた。
「さらにそれぞれの殺人が見立てられていたのもこの第一の事件をカムフラージュするためだったんです。連続で見立てられれば本来の目的から目を遠ざけることが出来ると考えたんでしょう」
「なるほど。でもまだ解らないことがある。本当の正岡さんの死体はどこへいったんだ?」
「ここで一つ可奈子ちゃんに質問したい。初めに正岡さんが首から血を流していたときに君は死んでいるかどうか確かめたかい?」
 突然話を振られたので驚いたのか少し慌てつつも可奈子ちゃんは答えた。
「……いいえ。首から血を流してたから、もう死んでるものだと思って調べなかったわ」
 真理以外の人間はまた驚く。
 無理もない。
 今まで死んだものと思い込んでいたのだろう、今の発言に真理以外は動揺を隠せないでいた。
「やっぱりそうなのね、透。正岡さんは死んでなどいなかったのね」
「ああ、そうだ。正岡さんは死んだふりをしていただけだったんだ。ここまで云えばもう解ると思いますが一応説明させて貰います。正岡さんは可奈子ちゃんが第一発見者となった事件で死んでなどいなかった。その様子を死んだと思い込んでしまった可奈子ちゃんは慌てて部屋を飛び出る。その後正岡さんは起きあがり部屋の外に用意して置いたハシゴで外に出ていった。しばらく経ってから別の誰かを殺し、断頭台で首を切断して自分部屋に運び込み、あたかも自分が死んでいると思わせたわけです」
 説明に納得した人が大部分を占めていたが真理はまだ気になることがあるのか質問をしてきた。
「でも館の鍵は閉まってたのよ? さっきも云ってたじゃない。誰かを担ぎながらハシゴを登るのは無理だったって。でも館には死体が運び込まれてたのよ?」
「そうだ。真理ちゃんの云う通りじゃないか。正岡君が犯人だったとしてもどうやって死体を運び込んだんだ?」
 真理の質問を受けて俊夫さんも疑問に思ったのか同じ質問をぶつけてきた。
「それを確かめるためにここへ来たんです」
「ここへ? どうして」
「誰かがいた痕跡を確かめるためですよ」
「どういうことだ?」
「正岡さんが殺した別の人はどこにいたんでしょうか? 三日月館の中にいてはバレる可能性だってあるわけです。では他の場所にいたのではないか? そう考えて思い当たる場所がココしかなかったので確かめたかったんですよ」
「つまり、正岡君に殺された人物はここにいたっていうことか」
「そうです。その証拠に缶詰なんかが転がっています」
 それでもまだ解らないらしい。美樹本さんが質問してきた。
「ここに誰かがいたことが解っても死体を館に運び込むことの説明にはならんだろう」
「いいえ、なります。正岡さんは死体なんて運んでいない。本人が館の方まで入ってきたんですよ」
「何? どう云うことだ? さっぱりわからんぞ?」
 もうほとんどの人がパニック状態に陥っている。
 説明しないで見ているのも面白いがそういうわけにもいかず説明する。
「この部屋を見て解るとおり拘束具の類はありません。これで正岡さんが監禁していなかったことが解ります。正岡さんは死体を演じたのち館を抜け出しここまで来ます。そしてここにいた人物を館の中まで連れて行った。もちろんハシゴを使って物置なんかに侵入します。別に誰を担ぐわけでもなくハシゴを登るわけですからあっさりと登って館には入れます。そこで正岡さんに殺害され、首を切られて部屋まで運び込まれたというわけです」
「……でも、そんなにうまくいくものかね? 大体、誰なんだ。その正岡君に殺害された人物は?」
「ここからは推測ですが、我孫子武丸さんではないでしょうか?」
「我孫子……武丸!?」
「彼はミステリーナイトを行うと招待状に書いていました。それを実行する人物が正岡さんだったんでしょう。我孫子氏はここで正岡さんが迎えに来るまで待っていて、その後みんなの前に顔を出す予定だったんじゃないでしょうか。ジョーク好きな人物だと村上さんも云っていましたしね」
 みんなもうパニックはおさまり話に聞き入っている。誰もがもう正岡さんが犯人だと信じて疑っていない様子だった。
「じゃあ、動機は何だったの?」
「解りません。それは本人に聞いてみるまでは。ただ、啓子ちゃんに関しては想像が付きます」
「何なの? 啓子を殺した理由って」
 可奈子ちゃんはどうしても知りたいようであった。
 自分が疑われていたときに必死になってかばっていてくれた友人の死なのだから。
「多分、正岡さんに出くわしたんじゃないかな。君が疑われていたとき彼女は君が犯人ではないことを証明するために必死になっていた。正岡さんの死体を調べに行ったのかも知れない。そこで……」
「……もういいわ。ありがとう」
 そういうと可奈子ちゃんは俯いてしまった。
 自分の無実の証明のために友人を失ったことが相当ショックのようだった。
「そこで提案があります。何人かのグループに分かれて正岡さんを捜し出すんです。もしかしたら館の中ではなく外にいるかも知れない」
「そうだな。そんな奴を野放しにしておく訳にもいかないからな。いいだろう」
「とっ捕まえて警察に突きだしてやる」
「わしかて極真空手の……」
「それはもういいですって」
 可奈子ちゃんは少し笑いながらツッコミをいれた。しかしその目には大きな決意が見て取れた。
 決意に燃えた面々で作戦が練られることになった。

     2

 透の推理で犯人が正岡さんということが解った。
 でも何かしっくりこない。胸の中に何かわだかまりが残っている。
 妙に気分が晴れない。
「どうした、真理? 君は僕と美樹本さんと行動することになったぞ」
「……ちょっと待って、もう少しだけ」
 何か解らない。でも、まだ解決していない気がする。
 何だろう。
 初めから振り返っていこうか。
 いったい何が。
「考え事は後にして。もうみんな出発しようとしてるぞ。僕たちは館の方だから遠いんだ。早くしてくれ……」
 館?
 そうだ。館だ!
「みんな待って。もしかすると正岡さんは犯人じゃないかも知れない」
 私が叫ぶようにして云うとみんな振り返ってものすごい表情を浮かべてこちらを見た。
「何云ってるんだ。もう事件は解決したじゃないか。犯人は正岡さんだろう」
「違うわ。一つ見落としがある」
「見落とし? 何を見落としとるっていうんや?」
「館の門よ。館の門にも鍵がかかってたはずだわ」
 みんなの表情にかげりが見えた。私が何を云おうとしているのか悟ったのだろう。
「正岡さんがいなくなった後の話でキヨさんが云ってたはずよ『しっかりと門扉の鍵は閉めました』って。キヨさん、門も閉めてたんですか?」
「……ああ! そうじゃった。門も閉めとりましたわ」
「そういえば、館の外を調べたときも門は閉まってたな」
 透は聞いて無いという顔をしていた。
 しかし確かにキヨさんは『門扉の鍵は閉めた』と云っていた。
「それに第三の事件のとき、美樹本さんもキヨさんの行動を説明してたとき『外の鍵を外しに出たそうだ』って云ってたでしょう?」
「……ああ、云ったな」
「という事は、正岡さんは外に出れたはずもなければ、我孫子さんが中に入ってくることもできなかったはずじゃない」
 しかし透も反論してくる。
「でも、正岡さん以外に犯人なんていないじゃないか。僕の説明以外にどういう説明がつくんだ?」
 そこだ。誰が犯人なのか……。
 その時天啓とでも云うべき閃きが起こった。
 今まで起こったことがフラッシュバックのごとく脳裏に溢れてくる。
「正岡さんは確かに透の云う通り可奈子さんが発見したときは生きていたと思うわ。そして、窓から出ていったとも思う」
「でも門は閉まってたんなら正岡さんはどこに隠れていたんだ?」
 俊夫さんもどうやら透に賛成らしい。
 もしかしたら他に思い当たることがないのかも知れない。
「私たちで一度、館の中を探索しましたよね。正岡さんがどこへ行ったのか」
「ああ。その時どこにもいなかったじゃないか」
「いえ、正岡さんは館の中にいたのよ。部屋から出てハシゴを使って今度は物置にでも入ったんじゃないかしら」
「どうしてそんなことをする必要があるんだ?」
「もし廊下で鉢合わせたら大変だもの。外を通って物置側から入れば見付かることもないわ」
「じゃあ、その後なぜ彼は見付からなかったんだ?」
「ただ、私たちに解らないようにしてただけ」
「解らないようにしていた?」
 俊夫さんは素っ頓狂な声をあげる。他の人も同じ意見なのか顔にしわを寄せて不思議そうにしている。
「どうやってそんなことをしてたんだ」
「簡単ですよ。私たちが二階の部屋の中を調べているとき廊下を通って別の部屋に逃げ込んだんじゃないかしら。そうやって私たちをやり過ごせば見付からなくて済むわ」
「しかし、そんなにうまくいくもんかな? 誰かに見られるかも知れない」
「それも簡単よ。誰かが入り口に立って死角にすればいいだけだもの」
 みんなの表情がまた変わる。し
 わに刻まれた顔は今度は皮膚が突っ張るほどになっている。
 驚きすぎてみんな目をむいた状態になっているのである。
「た、確かにそれでうまくいったとしてあの死体はどう説明するの? 首の無かった死体は?」
 みどりさんが聞いてくる。
 さすがに皮膚が突っ張ったままではなかったがそれでも驚いた表情のままであった。
「あれは、正岡さん本人だと思う」
「な、何だって!」
 今度は叔父さんである。みんな忙しいほどに顔を変えそして声をあげる。
「正岡さんの部屋を調べに行ったとき、死体も調べたの。手袋をしてたわ。きっと外に出るために着けたんでしょうね。その手袋が少し破けてそこに血が付着していたの」
「それが一体どうしたって云うんだ?」
「ほら、風切り鎌にも少し血が付いてたでしょう? ハシゴで降りるときにバランスが崩れそうになって刃の部分を握ったんだと思う。それで切れてしまったのよ」
「つまり、あそこから外へ出た正岡君はそれで手を怪我したんだと?」
「そうよ」
 ここまで来るとみんな私の話にも賛同の色を見せた。
「つまり正岡さんに見せかけた死体なんて存在しない。正岡さん自身は死んでしまっていたのよ」
「でも、ならどうして死体の首はなくなってたの? 別に首を切断する理由なんて無いじゃない」
「違うわみどりさん。必要ならある。現にこうして死体は入れ替わったものとして私たちは思いこみ、架空の犯人を探しに行こうとしてたんだもの」
「あっ」という声を出してみどりさんは口に手を当てた。
「別の犯人を仕立て上げるための罠だったんだ……」
 可奈子さんもそういって同じ動作をしながらそう云った。
「みんな見事に騙されてしまったのよ。すり替えが行われたと思い込むことでまったく別の答えを導き出してしまっていた」
 しかし透はまだ納得しないようである。一つの質問を投げかけてきた。
「それじゃあ、死体の首は一体どこにあるんだ? 壁の外に放り投げるにしても高さは5メートル近くある壁だぞ。首の重さを4〜5キログラムにしたって外に出せるもんじゃない」
「別に壁の外に投げる必要はないわ。壁の内側でも唯一隠せる場所があるもの」
 みんなどこにそんなところがあるのかという顔をする。
「どこも思い当たらないが……」
「何云ってるの叔父さん。叔父さんが一番知ってるはずよ。その場所を」
「私が? 一体どこにあるって……」
 そこまで云うと叔父さんは思いだしたらしい。言葉を切って口をあんぐりと開けている。
「……まさか。あの、噴水の中か!」
「そうよ。ここに到着したとき私叔父さんをあの噴水に突き飛ばしたの。叔父さん噴水にはまったまま出て来れなかった。いえ、はまったんじゃなくて溺れてたの」
「溺れてたって!? あの噴水、そんなに深いものなのか」
「叔父さんの足が届かないぐらいだからそこそこの深さはあると思うわ」
「でもよくあんな所にあるなんて解ったね。探してみたのかい?」
 俊夫さんが聞いてきたが私はかぶりを振って違うという意思を見せた。
「二度目に物置に調べに行ったとき違和感があったの。一度目は確かにあったはずの物がなくなっていた」
「物置にあった物?」
「叔父さんも、透も気付かない? 西洋の鎧兜。あれの兜が無くなってたわ」
「ああ……そういえば無かった気がする」
 叔父さんは呟くようにして云うと中空に目を這わせている。物置の中を想像しているようだ。
「あれが無くなっているとき変だと思ったの。兜の中に首を隠すなら解るけど、その隠す物ごと無くなるのは変だって。それを思い出したときピンときたわ。もしかすると兜の中に頭を入れて、その重みで噴水に沈めたんじゃないかって」
 叔父さんは目をこちらに戻し、なるほどという顔で私を見ている。
「正岡さんは誰かの手によって首を切断され、頭部を噴水の中に沈められてしまった。そうすることで死体が一体誰なのか判別されることなくあの死体を別の誰かに思わせることが出来たの」
「いったい誰なんだ。そんなことをした誰かとは」
「捜索隊に出た人は思いだして欲しいの。あのときの作戦を誰が決めたのか……」
 みんなの視線が俊夫さんに集中する。
「……お、俺じゃない! 真理ちゃん、言い掛かりは止めてくれ」
「私は何もいってないですよ俊夫さん。それに皆さん勘違いしてるようだけど犯人は俊夫さんじゃない。作戦を決めたのは確かに俊夫さんだけどその後で別の作戦を立てた人物いるわ」
「……ま、まさか」
「……私も考えたくなかったけど、他に犯人だと思い当たる人がいなかったの」
 俊夫さんに集まっていた視線は別の人物へと集中した。つい先程まで探偵役をこなしていたある人物に……。
「真犯人はあなたでしょう、透」
 透は俯いたままでいる。ほのかに明るくなってきた部屋の中で全員が透から少し遠ざかったように思えた。
 俯いていた顔をあげ、透は皆を見まわして口を開いた。
「……僕じゃないですよ。今までのだって全部状況証拠に過ぎないじゃないですか。そうだろ、真理? たまたま僕がそういった作戦を云ったってだけで犯人にされちゃあ困るよ」
 しかし誰も透に賛同する者はいなかった。仕方ないといった表情で透は自分の弁護を始めた。
「思い付いた行動だったよ。ただそれを提案しただけで僕が犯人と決めつけるのは少し軽薄な行動じゃないか?」
「じゃあ聞くわ。透、あなたの部屋を捜索隊で調べていたときあなたはどうして入り口付近で立ったままだったの?」
 透は少し眉根を寄せたがすぐに元の表情を作り直し解説を行った。
「あれはただ自分の部屋だから下手に動き回らない方がいいと思ったからだよ。自分の部屋で探し回る行動をとって他の人から疑われることを防ぐためさ。たまたまだよ」
 透の弁護に周囲の人は疑わしい表情を向ける。もう完全に透の味方になる者はいなかった。
「それだけかい? それじゃあここにいる他の人たちにも犯行が可能だって云うことにしかならないと思うよ?」
「いいわ。完全な証拠を提示してあげる」
 この言葉にはさすがに透も少し反応した。しかしすぐにまた元の表情に戻り口を開いた。
「……どんな証拠だい? 提示してもらおうじゃないか」
「みんなに思い出して欲しいの。第三の事件を。あのときの見立てには何が用いられてた?」
「……第三だから、啓子君の事件か。あのときは確か……」
「鮫よ。小型の鮫のはく製が置いてあったわ」
 みどりさんが云うとみんな頷いた。
「それを見て皆さんはどう思いましたか?」
「どうって。……少し変やな、とは思ったけどな」
「そうだ、確か船長の唄では『ワニ』と歌っていたから、鮫が置いてあるのは変に思ったな」
 他の人もそう思ったのか口々にそう云う。しかしキヨさんだけは違った。
「え? そうなんですか? 私はわらべ唄通りじゃと思ったけんど……」
 全員の視線がキヨさんに集中する。
「あれは村に伝わる唄じゃが、鮫のことをワニと歌っておったが」
「そうです。鮫は昔はワニと呼ばれていました。いつ頃作られた唄かは知らないけど昔から伝わるわらべ唄なら鮫のことをワニといってもおかしくないわ」
「だから、それがどうしたって云うんだ真理」
 苛立たしそうに透がこちらに聞いてきた。
「今キヨさん以外の人が云ったように『鮫』は『ワニ』と勘違いしてしまうはずなの。でも見立てでは違った。『ワニ』はしっかりと『鮫』で見立てられていた。という事はハッキリと『ワニ』を『鮫』と認識していなければいけないわ」
「そういえば確か、物置には魚類のはく製と爬虫類のはく製があったがしっかり魚類の方を選んでいるな……」
 透の表情がどんどん険しくなる。少し気圧されそうになったがそれでも続けた。
「透、確か手帳にわらべ唄を記帳していたわよね。見せてくれない?」
 全員が透の方を見つめている。透はポケットに手を伸ばすとそこから手帳を取り出した。
 その手帳を香山さんが受け取るとわらべ唄のページを探し始める。香山さんの手がぴたりと止まった。
「……ちゃんと書かれとるわ。鮫ってな」
 透は肩を震わせている。もう観念したのかと思いきやまだ反論をする。
「……今云ったのは俺でもキヨさんでも犯行が可能だって事だろう? キヨさんだって犯人になり得るんじゃ……」
「それはないわよ。キヨさんには正岡さんを犯人に仕立て上げることは出来ない。自分で門の鍵を閉めてたからよ。それから、もし見立てることをしなかったとしても、捜索隊のメンバーに参加しなければ正岡さんを発見されてしまうかも知れない。それなのに捜索隊に参加せず待機してるのもおかしいわ」
「……でも、まだ僕を犯人と決めつけるには……」
「いい加減にして!」
 私は思わず声を張り上げてしまった。透はその声に言葉を詰まらせ黙ってしまった。
「……じゃあ聞くわ。私が部屋を訪れたとき、話したのは覚えてるわよね。可奈子さんは犯人じゃないと思うっていう話よ」
 透は頷く。しっかりと頷いていた。
「可奈子さんが犯人じゃないと思っているなら、どうして部屋の鍵を掛けてなかったの? 他に犯人がいると思うなら鍵を掛けるはずでしょう? 説明して」
 透の顔は完全に変わっていた。険しかった顔が絶望の顔へと変わっている。
 私が部屋を訪れたとき透は『開いてるよ』といって中へ入れてくれた。
 しかし犯人は二人も殺しているのである。普通なら鍵を掛けずに部屋で休む何てするはずがない。
 そう、犯人に襲われる事がないと知っていなければ……。
「……あなた以外に犯人は考えられないわ」

     3

 透は何も反論しなかった。
 もう認めざるを得ない。私はこんな結末を導き出したくなかったのに。
「透君。どうしてだ。どうしてみんなを……」
 叔父さんの言葉に透は腹の底から絞り出すような声で話し始めた。
「……復讐です」
「復讐? 一体どんな……」
「……僕には姉が一人います。かまいたちの夜にも出てきた河村亜希です」
「君が……亜希の弟……?」
 美樹本さんは透に呟いた。しかし透はその言葉を聞くと美樹本さんの方に身体を向け口を開いた。
「あんたには姉さんを呼び捨てに……いや、姉さんの名前すら口にしてもらいたくないな」
「……ど、どうして」
「話してやるよ。昔両親が別れて俺は母親に、姉さんは親父に引き取られた。俺の母は大学に入ってから病気で死んだ。姉さんは俺の学費を必死で稼いでくれた。そんな俺に復讐が湧いた理由。まずは正岡だ」
 突然口調が変わったことには驚いた。今まで聞いたことのない言葉遣いだったし見たこともない表情だった。
「あの男は俺の姉さんの常連だったよ。キャバクラに勤めてた」
 キャバクラ? どこかでも聞いた気がする。
「あの男は姉さんに暴力は振るうし金だって巻き上げていく。ろくでもない男だったよ。他の店員はあいつが組み絡みなのを知ってたから手も出さなかったし口も出さなかった」
「そ、そうや。夏美もそんな事云うてた……」
 どこかで聞いたと思ったが、そうだ。香山さんの話だった。
「香山さんには申し訳ないけど、あの女も大概だったよ。姉さんにあの男を紹介したのはあの女だった」
「そ、そんな理由だけで夏美を!」
 今にも掴みかかりそうな感じだった香山さんを叔父さんと俊夫さんが止めた。
「それだけじゃないさ。あの女は姉さんを紹介したあとも正岡とつるんで姉さんから金を巻き上げてたよ。信じられるか? 姉さんは暴力に怯え、自分をどん底まで突き落とす男を紹介したあの女にまで金を払ってたんだ!」
 透の言葉は語気が荒くなっていた。無理もない、そんな辛い話はしたくないだろうから。
 その話を聞いて香山さんは目をしばたたかせている。
「……そんな。あいつに、夏美に限って……」
「最近はどうだったのかまでは知りませんが、そんな人だったんですよ」
「ちょっと待って。じゃあ、啓子は? 啓子はどうなの? あの子はそんな話とは無縁な子よ?」
「……啓子さんには申し訳ないと思ってます。正岡さんの部屋を調べてたんです。もしかしたらと思って行ってみると、案の定いました」
 啓子さんの話になると本当に申し訳なさそうな声で話している。俯きながらもしっかりした声ではあった。
「……部屋を探ってるだけならよかったんだけど、僕に向かって聞いてきたんです。『正岡さんはあなたに殺されたんじゃないか』って。理由を聞いたんです。そうしたら、『断頭台が隣の部屋にあるのにどうしてその音をあなたは聞いてないの』って。『だからあなたが犯人じゃないの』ってね。確かに僕は部屋割りを都合よく書いていました。断頭台の音を聞かれないようにするためにも自分の部屋の隣に物置部屋を持ってくるように」
「……そのことに気付かれたから啓子を殺したのね」
 やりきれない表情で可奈子さんは透に云った。透はまだ顔をあげられないでいた。
「でも、どうして俺達までここへ招待したんだ?」
 俊夫さんの問いに透は重い口を開いた。
「正岡だけを招待すると本人に怪しまれると思いました。だから村上さんも招待したんです。そして、夏美を招待するとなお怪しまれる。そこであの女の素性を調べたると香山さんと籍を入れてることが解った。偶然だったけどこれで怪しまれずに済むと思ったんです。けど他の人も誘わないと怪しまれる。だから誘ったんです」
「わしのとこだけ一通しか招待状が来てへんのも……」
「……まさか春子さんと別れてるとは思ってなかったんで。かといって夏美宛にも招待状を出すと怪しまれるから一緒にさせてもらったんです」
 一通だけの招待状はそんな意味があったとは思わなかった。しかしまだそれだけでは透の話は終わらなかった。
「それに、もう一人招待すべき人物がいた。あんただよ、美樹本」
 そういうと透は美樹本さんの方を向いて彼を睨み付けた。怒りを露わにした表情である。
「本当は第三であんたを殺す予定だった。そして四番目の唄は正岡を犯人と見立てておけば自然とその歌詞通りになる予定だった」
 第四の歌詞と同じ?
 どういう歌詞だったか思い出してみる。

 底虫村の 罪人どん
 今日じゃ今日じゃと 泣いてござる
 何が今日じゃと 童(ワラベ)コ聞けば
 悪たれ鼬の ふうのしんも
 わっかが解けりゃ 慌てて逃げる
 それが今日じゃと 泣いてござる
 びゅうびゅうびゅうの
 ざんぶらぶん
 びゅうびゅうびゅうの
 ざんぶらぶん

 慌てて逃げる。
 そうだ、歌詞通りになっている。あの四番にはそういった意味があったのか。
「だけど第三の事件で啓子さんを見立ててしまった以上、どこかで犯行を行う必要があったよ。必死で考えたんだが、真理に止められてしまった」
「私に?」
「ああ。犯人を捕まえる名目で美樹本を殺す予定だったんだけどな」
 確か犯人捕縛隊のメンバーは私と透、そして美樹本さんだった。そこでもそういった意味があったとは思わなかった。
「でもどうして美樹本さんを?」
 透は美樹本さんを見据えたままでいる。口が重い感じだ。唇が震えているのが見える。
「……こいつは。正岡のバックに付いてたヤクザだったんだよ」
 透の重い声にみんな驚きを隠せないでいた。かくいう私もそうである。
「こいつは姉さんに近寄って正岡達に居場所を教えていたのさ。そして、苦しんでいる姉さんに逃げ道を与えたのもこいつだよ」
「逃げ道?」
「……覚醒剤さ」
 低くなった声を出してさらに美樹本さんを睨み付ける。
 美樹本さんはすました顔で透を見返していた。いや、すました顔ではない。
 殺気のこもった冷たい視線であった。
「姉さんは俺の家に来てうわごとのように何度も三人の名前を繰り返していた。多少本人から話を聞いてはいたけどここまで酷いものとは思わなかった。家に来てから三日後だよ。姉さんは意識不明で倒れてしまった」
 透の目には涙が浮かんでいる。
 亜希さんは透の目の前で倒れたのかも知れない。
 悲しい目を透はしていた。
「……まだ生きているんだけどね、植物状態ってやつさ。……それから少したってスキー場に行った。そこに珍しい名前の男が宿泊していた。お前だよ、美樹本。まさかとは思ったけど探偵に調べてもらって素性を洗った。どんぴしゃだったよ。あれ以来怒りは治まらなかった。前々から続けていた作家業を今度はゲームの世界で行った。売れると確信していたよ。必死で考えた作品だったからな。その売り上げでどこかを買い取ろう。そして、復讐を果たそうと」
 ゲームの時は確か美樹本さんが犯人だった。
 そう、ヤクザ風の男になりすまし、殺人を繰り返した犯人。
「残念だったな、少年。恨みが晴らせそうに無くて。おい、みんな。何してるんだ? 殺人犯が目の前にいるんだぞ? 捕まえろよ」
 美樹本さん……いや、この男にさん付けは必要ないだろう。美樹本は低く冷たい目で全員を睨み付けた。
 しかし誰も怯まなかった。この事件の原因を作った男に従う者などいなかった。
「…………」
 透は黙り込んでいる。しかし肩は震えて拳の先までその震えは伝わっていた。
 怒りを表に出そうとしている。しかし、理性がそうはさせまいとしているのだろう。最後の理性が。
「……何だその顔は。ガキ風情が大人の世界に首を挟むからこんな事件を起こしちまうんだ。お前の姉だってそうさ。ガキが大人の世界を理解できずに狂っただけだろう? 違うか? 甘ちゃんは黙って……」
 その時だった。
 最後の理性が切れたのか透はポケットに隠し持っていたナイフで美樹本に襲いかかろうとした。
 しかし美樹本はその攻撃をかわすと私の腕を掴みねじり挙げる。
「……真理!」
「動くなよ? この女の腕がへし折れる前にそれを置け」
 ぎりぎりとねじ上げられる痛みが全身に伝わってくる。
 合気道を使おうにも使えない。思ったように身体は反応してくれなかった。
 美樹本の言葉に従うように透はナイフを床に置くとその場から少し下がった。
「よし、いい子だ。おい、お前ら何してる。あいつを捕まえろ」
「何故貴様の命令を……」
「いいのか? この娘の腕が折れちまうぞ?」
 叔父さんは悔しそうに下唇をかんだ。そして透に近づき押さえ込む。
「それだけか? ベルトがあるだろう。それで縛り上げろ」
 叔父さんは美樹本の命令通りベルトを外し透の腕を後ろ手に縛り上げた。
「……すまない、透君」
 透はそれでも叔父さんには顔を向けずに美樹本を睨み付けている。
「よし、全員外へ出ろ」
 全員美樹本の云うことを守り、小屋を出る。透を残して。
「おいガキ。お前、俺を殺す気だったんだろ? 今度は俺が同じ事をしてやろう」
 そういうと美樹本は器用に片手でジッポライターを取り出した。
 窓側に付いているカーテンに近づきそこに火を着ける。
「……信じられない。叔父さん、俊夫さん! 早く、透を助けてあげて!」
「おっと、近づくなよオッサンども」
 そういうと今度は拳銃を取り出し私のこめかみに押しつける。何故こんな物を持っているのかが解らなかった。
「動くと脳味噌がぶちまけられるぜ? 組からくすねた護身物がこんなところで役立つとは思わなかったぜ」
 叔父さんと俊夫さん、他のみんなも透を助けに入ろうとしていたがこの行動で身動きできなくなってしまった。
「透……」
「真理、云うことを聞くんだ。俺は人を殺してしまった。しかるべき報いなのかも知れない。この男にそれが下されるのが気にくわないけどね」
「……いい事云うじゃないか。裁判所だってお前は死刑にするかも知れんからな。御上の手を煩わせる必要はないだろう」
「……真理、すまなかった」
 そうこうしているうちに火が周りに移り始める。外とは対照的な黒い煙を吐き出し視界をどんどん遮っている。
 美樹本は煙を嫌うように私を前で捕らえながら小屋を出る。
 美樹本が小屋から出ると全員を小屋から遠ざける。
「殺人者のあっけない最期でも見届けるんだな」
 そう云うとかんに障る大きな声で笑い始めた。みんな動くことが出来ず悔しそうに睨み付けている。
「……お願い。……私はいいから……透を助けて」
 絞り出すようにみんなに云ったが誰も動いてくれない。
 自分の無力さをこれほど呪ったことはなかった。
 お願い、誰か。
 透を……亜希さん……透を守って……!
 その時だった。
 強烈な風が吹き出し、積もった雪を一面に舞上げる。
 辺りは一瞬にして真っ白になり何も見えなくなった。
 これは……。
「ちっ、ホワイトアウトか! まあいい、動きさえしなければ何てことは無……」
 突然美樹本の声は途切れ腕に解放感が訪れる。何が起こったのか解らないが透のいる小屋がある方向を向き走った。
 実際には透の小屋がある方向かどうかは解らなかった。
 でも何もしないでいることが出来なかった。
 実際には一分くらいのものだったのかも知れない。
 しかし白い闇の中にいたときは何時間にも感じられた。
 目の前にうっすら赤い光が見えた。
 ホワイトアウトも少し治まったのだろう。
 急いで光の方へ駆け寄った。
 木製の壁伝いにドアを探し出し小屋の中に飛び込むと外とは違う黒い闇。
 その中で倒れている人影が赤く照らし出された。
「透!? 大丈夫!?」
 呼びかけても返事がない。急いで小屋から連れ出し何度も呼びかける。
「透! しかっりして! お願い! 透……!」
 もう途中からは涙が流れてしっかり声が出せないでいた。外の白闇は晴れてきて視界も回復している。
「……真……理」
 透の声を聞き取り顔を見た。
 うっすらと目を開けているように思えたが涙で視界がぼやけてどうなのか解らない。
「……無事か……? ……よかった」
 こんな時にまで透は私の心配をしている。必死に涙を止めようとするが滝のように流れる涙は止まらなかった。
「真理! 透君! 無事か!?」
 叔父さんが駆け寄り透と私に呼びかける。
「無事みたいだな。透君、少し待ってろ。腕のベルト外してやるからな」
 そういうと叔父さんは透を縛り上げたベルトを外し束縛から解放する。
 私は涙を拭いながら叔父さんに美樹本はどうなったかを聞いた。
 聞き取りにくかったのか何度か聞き返した後に答えてくれる。
「ああ、奴なら捕まえてるよ。一瞬目の前が真っ白になったときは何が起こったか解らんかったが、視界が開けると美樹本が腕を押さえて血を流していた」
 腕から血を流して倒れていた?
 状況を飲み込めなかったがどうやら誰かに腕を切られたのだろう。
「しかし不思議なんだ。どこにも凶器が見当たらなくてな。誰もやってないと云いうんだ」
 誰もやっていない? では何故腕が切られてるのだろう。
「すぱっと切れていたが思ったほど血は出ていなかった。傷口は結構深かったんだが、まったく……解らない」
 叔父さんは肩をすくめてみせた。
 すぱっと切れていたけど血はほとんど出ていない……?
 かまいたちに切られた傷口は鋭利な刃物で切られたようになるが出血はほとんど起こらない。まさか……。
「でも、無事で本当によかった。透君、君のやったことは何ものにも代え難く重いことだ。罪は償うんだよ」
「……はい。罪は……しっかり償います」
 その言葉を聞くと叔父さんはにこりと笑って立ち上がった。
「……おおい! 大丈夫か!? 無事なんか、そっちは?」
 香山さんの大声が聞こえてくる。
 その声に叔父さんが返答すると急いで駆けて向かってくる。
 その時何かにつまづいたのか香山さんは前のめりに転んだ。
 再び立ち上がるとそこには目を向けたくない光景が飛び込んできた。
 ズボンがずれているのである。
 白い背景に浮かび上がる真っ赤なパンツをはいた香山さんの姿が目に入り思わず目を背ける。
 どうやら美樹本を捕まえるときには香山さんのベルトを使ったようだ。
 遠くからは大きな笑い声が聞こえ別の場所からは木の燃え上がるパチパチという音が聞こえてくる。
 その音に乗ってわらべ唄が聞こえたように思った。

 底虫村の  罪人どん
 今日じゃ今日じゃと 泣いてござる
 何が今日じゃと 童(ワラベ)コ聞けば
 悪たれ鼬の ふうのしんも
 わっかが解けりゃ 慌てて逃げる
 それが今日じゃと 泣いてござる
 びゅうびゅうびゅうの
 ざんぶらぶん
 びゅうびゅうびゅうの
 ざんぶらぶん




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