2005年 4月29日 1:10
救急車が到着したがもう手遅れであることが救急隊員に伝えられた。
すぐに救急隊は警察への連絡をはじめ、淡々と作業をこなしていた。
皆は警察が来るまで1階にいるようにだけ伝えられ、部屋から出るように言われた。
それからしばらくして警察が到着した。
そして軽い捜査がはじまり、すぐに警察は一同の元へやって来た。
「今回の捜査の指揮を執ることになった平家と申します。それでは取りあえず報告だけさせていただきましょう」
平家という刑事は自己紹介ついでというような形で捜査の報告をはじめた。
「死因は頸部圧迫による窒息死。死亡時刻は20時前後と言うことです。それから、彼……六波羅さんのガウンのポケットから遺書が発見されました。ご本人の筆跡かどうか確かめていただきたいのですが……」
そう言うと遺書を一同の前に提示した。飯村がそれを手に取ると食い入るように文面を黙読しはじめた。
「どうですかな? 本人の筆跡に間違いはありませんかな?」
「……はい。間違いありません」
消え入るような声で飯村が言うと帆坂は飯村の手から遺書を奪うようにして目を通しはじめた。
それを読み終えたのか、力の抜けたように帆坂は遺書をテーブルの上へと置いた。
「先生の……筆跡だ」
「うむ。どうやら間違いなさそうですな。それではコレはまだ少し預からせていただきます。それから、皆さんにお伺いしたいのですが、ドアが蹴破られていたようなのですが、部屋には鍵が掛かっていたのですかね?」
遺書を懐にしまい込みながら平家は質問をした。
「……はい。先生に何度も呼びかけても返事がなかったので……中で倒れておられるのかと思って、それで……」
「中で倒れている? 何か根拠のようなモノはあったのですかな?」
「先生は最近体調を崩されて、心臓があまり良くなかったんです……。だから……」
二ノ宮は涙を堪えるようにしながら答えた。
「なるほど。それで不審に思ってドアを蹴破ったわけですな。合点がいきました。それから言い忘れておったんですが、六波羅さんのベッドの上からは『黒い鍵』が発見されました。窓もしっかりロックされておりましたから、自殺と見て間違いないでしょう」
「あの……、刑事さんお願いがあるんですが」
「何ですかな?」
晴見は平家に向かって口を開いた。
「私と二ノ宮くんは、まだ遺書を読んでいません。ですから、遺書のコピーでも結構ですのでいただけないでしょうか……? 先生がどのように思われて亡くなられたのか知らないままというのは……」
そこまで言うと涙で声を詰まらせて晴見は言葉を切った。
「……いいでしょう。人数分のコピーを致しましょう。後でそれをお渡しいたします」
「……ありがとうございます」
晴見に代わって二ノ宮が礼の言を述べた。
「それからもう一つだけ。何か変わったことなどはなかったですかな? 本人のことでも結構ですので」
「……いいえ。ありませんでした」
飯村が答えたことに対して晴見と二ノ宮は目を丸くした。
「そうですか。なら、本格的な捜査を行いますので、皆さんはしばらくここに滞在してください。ご協力をお願いします。それでは」
そう言い残すと平家は一礼をして階段を上がっていった。
「ちょっと、一体どういうこと!? 何もなかったって!?」
晴見は詰め寄るようにして飯村に問いかけた。
「君は遺書を読んでいないだろう……。そこに書かれていたことを読めばそう言うしかないさ……」
「ど、どういう事よ!?」
晴見は尚も飯村に詰め寄ったが、それを制するように帆坂が口を開いた。
「遺書には『君たちに残したモノは君たちで何とかしてくれたまえ』と書いてあったのさ。つまり、先生は僕たちに挑戦状を残したまま自殺したのさ……」
「『残したモノ』って……」
「おそらく、鍵を入れ替えた『密室の謎』だろう……」
帆坂の言葉を補うように飯村は晴見に告げた。
9
2005年 4月29日 2:00
一同はメインロッジを後にすると飯村の『赤のロッジ』に集合した。
「先生は私たちに何故あんな挑戦状を残したんだろうな……」
呟くようにして飯村が言った。
「さぁね……。でも取りあえず、謎は僕たちだけで解けって言うことだと思う。だからこそ回りくどい言い方で遺書に残したんだろう」
「ああ。でも何から取りかかればいいのか解らない……」
飯村は頭を抱えて俯いた。
「まずはこの『鍵』がもう一本あった可能性を考えてみてはどうでしょうか?」
二ノ宮が提案すると晴見はそれに対してかぶりを振って見せた。
「それはないわよ……。ここの鍵は先生が生前に1本ずつしかないと言っていたもの……」
「それに鍵がもう1本あったなんて簡単なことを先生が残すほどの謎になるわけがないしな」
帆坂も同意するように言った。
「じゃあドアのすき間から鍵を忍ばせる方法はどうですか? あれくらいのすき間なら鍵が滑る込む余地もありそうじゃないですか?」
そう言うと二ノ宮は入り口のすき間を指さした。
「……確かめてみるか」
鍵を握って飯村は立ち上がるとドアの所にしゃがみ込んだ。
「どう? そこに入りそう?」
振り返って飯村は一同にかぶりを振った。
「……ダメだ。この鍵にはめ込まれたガラスの出っ張りが邪魔してつっかえてしまう」
「これもダメか……。まぁ、そんな簡単な方法であるワケもないか……」
ため息をつくように帆坂も俯いた。
「発想がマズいんじゃないかしら? 先生はマジシャンよ。そこに着目しながらでなければこの謎は解けないんじゃないのかしら?」
「そうだな……。日頃こんな発想をしていなかった私たちに対しての『挑戦』なのかもしれないな……」
「ならばどこかに取っかかりになるモノがあるはずよ! ロッジに私たちが気付いていない何かがあるんじゃないかしら?」
晴見は皆に提案を持ち出した。
「よし、じゃあ調べてみるか! まず、このロッジからだ!」
帆坂は俯いていた首を上げると声を上げていった。
「いつも疑問に思っていた『窓』に何かないものだろうか? ここのロッジ群に共通して言える不可思議な点と言えば奇妙に彩られた『窓』じゃないか?」
「そうですね。この窓自身も何かしらのヒントになっているのかも知れませんね!」
そう言うと二ノ宮は窓に近づき目を凝らした。
「それにしても少し暑くないか?」
「小さなロッジに4人もいるんだ。当然だろう? 何ならクーラーでもつけてみるか?」
そう言うと飯村は電灯のスイッチの下にあるクーラーのスイッチをオンにした。
「まさかこんな季節にクーラーを使うことになるなんてな」
飯村が自嘲気味に笑いながら言うと部屋には静かに冷気が漂いはじめた。
「……窓には特に何もないですね。色が違うガラスと言うだけのものみたいです……」
「そう……。じゃあ他には何かないのかしら? あ、そういえば少し思ってたことがあるんだけど」
何かを思いだしたかのように晴見は声を上げた。
「ここのロッジの調度品って先生の所の部屋と同じよね? 置いてある場所も、物も」
「それが一体どうしたって言うんだ? まとめて購入した方が安くつくからそうしただけじゃないのか?」
「……何よ。少しでも気がついたことがあれば口にしたっていいじゃない……」
「まぁ、まぁ。こんな時までケンカしなくてもいいじゃないですか。今は休戦協定を結んでくださいよ」
間に割って入るようにして二ノ宮は帆坂と晴見をなだめた。
「晴見くんの言うことももっともだ。何か少しでも気がついたことがあれば口にしようじゃないか。それが何かの取っかかりになるかも知れないんだから」
飯村も晴見の意見に賛同するように帆坂に言った。
「まぁ、そう言われれば返す言葉もありませんがね」
そういったやり取りをくり返してはお互いで意見を出し合っていたが一向に解決の糸口は見えてこなかった。
「はぁ……さすがに腹が減りましたね」
「そう言えば夕食を食べもせずでしたからね。警察の人に言ってメインロッジで食事をさせてもらいましょうか」
二ノ宮の意見には皆意見が一致したので、推理大会は一時休止してメインロッジへと向かうことにした。
10
2005年 4月29日 4:00
警察に了承を得てメインロッジで食事をとることになった。
夜も遅く、少し眠気もあったので軽めの食事となった。
食卓に並んだのは軽く焼き目の入れたトーストでできたサンドウィッチと紅茶だけだった。
「今回はみんな砂糖抜きでいいかな?」
飯村の声に一同は頷くと全員黙々と食事を口に運んだ。
それからしばらくして食事を終え、軽く話し込むと時刻はもう5時になっていた。
「……もうこんな時間か。そろそろ今日はお開きにしないか? まだしばらくはここに滞在するわけだし、また休憩をとってからにしないか?」
「そう、ですね。さすがに色々なことがあって疲れちゃいましたからね」
二ノ宮も披露を浮かべた顔で答えた。
「っじゃあ、この続きはまた起きてからって事にして、お開きにしますか!」
軽く伸びをして首を回しながら帆坂も同意した。
「そうね。じゃあここの片づけは私がやっておくわ。その代わり、朝食の用意は男どもでやってよね」
そう言うと晴見は片付けに入った。
「OK! じゃあ私は先にロッジに戻らせてもらうとするよ」
そう言い残して飯村はメインロッジを後にした。
もう外はうっすら明るくなってきていた。
『赤のロッジ』に戻ると飯村は『赤の鍵』を差し込み開錠して部屋に足を踏み入れた。
「寒!」
部屋に入るととてつもない冷気に襲われた。
メインロッジへ移動するときに電気だけ消してクーラーを切り忘れていたのである。
さすがに春の陽気になっているとは言え、早朝の気温にクーラーは似つかわしくなかった。
すぐにクーラーのスイッチを切るとドアと窓を開け冷気を抜こうとした。
しかし飯村は窓に手を掛けたときに少し違和感を感じた。
部屋に入り込む光がいつもの真紅ではなかったからである。
「どういうことだ? 窓の色が少し違うような気がするが……」
目の前にある窓を食い入るように見と、やはりいつもと違う色であった。少し紫がかったような……。
「クーラーの加減で光の屈折率が変わったのか? ま、待てよ。だとしたら!」
一言漏らすともう部屋に戻っているであろう帆坂のロッジへ向けて飯村は駆けだした。
息を整えることもせず飯村は『緑のロッジ』のドアをノックして帆坂を呼んだ。
「どうしたんですか? 自分のロッジに戻ったんじゃあ……」
ドアを開けた帆坂を後目に中にはいると飯村はクーラーのスイッチをオンにした。
「な、何をするんですか!? こんな時間にクーラーなんか付けないで下さいよ! 僕を殺す気ですか!?」
「いいから、少し見てろ!」
飯村が言うと帆坂は合点のいかない顔のまま頭を掻いた。
それから10分ほどして冷気がロッジの中に立ちこめると飯村は帆坂に向かって言った。
「見てみろ。あの窓を。少しずつ色が変わっていってるだろう!?」
飯村に促されて帆坂も窓の方を見ると先ほどの『緑』が薄い青色を携えた色になっていた。
「やっぱり窓に秘密はあったんだ! おそらく他のみんなの所もそうなんだろう。これで一つ取っかかりができたじゃないか!」
飯村は薄く笑って帆坂の方を向いた。
マジシャン六波羅はどのようにして鍵を入れ替え、各ロッジを密室にしたのか?
ここまでの問題編の中に密室を改名するための情報、また謎を解く鍵は隠されています。
基本的なルール
・表示された時刻は日本標準時である
・登場人物の氏名、性別の表記に嘘はない
・謎を作ったマジシャン六波羅の手によって密室はなされた
以上のことをふまえた上で
『密室の謎』を解決に導いてください。